(旧)理事長挨拶(H29.7.31)
山梨県立病院機構(県立中央病院・県立北病院)
理事長 小俣 政男 (Omata Masao)
H29.7.31
H28年度 (第二期中期計画二年度) の決算報告と取り組み
H22年度にスタートした地方独立行政法人山梨県立病院機構は、H27年4月より、第二期中期計画が始まった。 その第二期中期計画の二年度が終了したので、報告致します。
A)決算の状況
① H28年度決算
総収入は 259.1億円 (H27 257.2億円)、総支出は 240.9億円 (H27 243.9億円) となった。 従って、収入は1.9億円伸び、支出は3億円減少した (図1)。
その結果、H28年の経常利益は18.2億円 (H27 13.3億円)、純利益は16.2億円 (H27 12.8億円) となり (図1)、法人化後7年で、経常利益は最大、純利益はH24年度に次いだ。
その結果、H28年の経常利益は18.2億円 (H27 13.3億円)、純利益は16.2億円 (H27 12.8億円) となり (図1)、法人化後7年で、経常利益は最大、純利益はH24年度に次いだ。
② H28年度計画との比較
H28年度の当初計画では経常利益は、9億2,100万円、純利益8億5,500万円と想定したが、それらに比べ、それぞれ4億1,200万円及び4億 2,000万円の想定以上の利益を上げることができ、第二期中期計画の初年度・第二年度を順調にスタートできた (表1)。
③ 第一期中期計画5年間 (H22~H26年度) の純利益及び第二期中期計画第二年度 (~H28) の純利益
法人化発足直前のH21年度の累積損益は、-152.1億円であったが、H22年度からH26年度までの5年間の累計の純利益は42.6億円となり、第一期中期計画が終了した (図2)。
この第一期中期計画中の純利益42.6億円は、第二期の建設改良費として、最新機器の購入等に用いる。
H27年度から始まった第二期中期計画では、更に強靭な経営体質を確立するために、黒字の累積を第二期の5年間で34億円と想定した。計画初年度であるH27年度純利益12.8億円、H28年度純利益は16.2億円、2年間で累計29億円となった。これは、計画を4.2億円上回っている。
B)病院の現状と展望
① 救命救急医療体制の充実・強化
中央病院は、第3次救急医療を担う病院として、ドクターヘリやドクターカーを活用し、 迅速で効率的な医療を提供してきた。更に、患者さんの重症度及び緊急性に柔軟に対応するために、3次救急のみならず、法人化前 (H21年度) 対比で2次救急235%増、1次救急他151%増と、3次救急に限定しない幅広い救急医療を行っているのが、近年の当院の救急医療の特徴である (図3)。また、H27年度に開設した総合診療科と救命救急センターとが一体化した、幅広い救急医療体制の充実強化を図っている。
② 若手医師の育成
中央病院の医師総数をH13年から俯瞰して見ると、法人化当初のH22年度期首は144名、現在H29年度期首は186名と9%増加した (図4)。
なかでも、若手医師、即ち40名の初期研修医と27名の後期研修医 (専修医) 計67名は、法人化発足H22年度期首41名と比し、63%増であり、これは卒後6年以降の常勤医師の伸び率、H22年度期首103名であったものが、現在H29年度期首119名の16%増と比べると明らかに多い (図4)。
即ち、病院の中に若手医師が “溢れている” の感がある。病院活性化の根源である若手医師不足解消は、多くの職員の努力によって、当機構では著しく改善している。
③ 臨床研究
若手医師の育成・強化の骨格となるのは、第一線の病院であっても臨床研究を遂行する指導体制の確立である。当機構では、初期研修2年終了時の研究発表として、Cohort研究が推進され、その内容は極めて優れたものが多い。これは、当院に蓄積された臨床データ-を上級医と初期研修医が共同作業を行い、臨床的研究成果として発表するものである。これらを含め、県立中央病院の学術活動として、H28年度英文論文は52、邦文論文は29、合計81。また学会等の発表は、国外が34、国内561、合計601という膨大な数にのぼった (図5)。
④ GAC (Genome Analysis Center) ゲノム解析センター活動
2013年、当院のATCCに併設されたGAC (Genome Analysis Center) で解析された遺伝子情報と臨床データの統合により、質の高い発表が2015年より相次ぎ、現在まで英文論文25編、学会発表111回が行われた。更に、安田記念医学財団 (弘津陽介)、日本遺伝子診療学会若手奨励賞 (雨宮健司) らの受賞者が相次いでいる。
⑤ 若手医師海外留学制度
当機構職員には、海外留学の際、本俸の70%が支給されるという規定がある。H27年度、北病院からニューヨークへの留学者が出た。目的の明確な留学であり、当県の医療の質向上に寄与するものと考えられる。三沢史斉医師がその第一号となり、この制度により海外留学を行った。帰国後の研究成果が期待される。
⑥ 山梨県のがん拠点病院としての機能 : ATCC (Ambulatory Therapeutic Cancer Center) 通院型がんセンター
当県には、がんセンターは存在しない。しかしながら、入院から外来への流れを癌治療の将来への主たる流れと考え、H25年1月に通院加療がんセンター (ATCC) を発足させた。
H22年法人化発足当時のがん化学療法の治療例数は、入院月間200、外来200強と、ほぼ同数であった。その後、ATCC通院型がんセンターがスタートし、入院での治療は、月間ほぼ200から300を推移しているが、外来でのがん治療患者数は月間700を超し、3.5倍強となった(図6)。総数も、直近のH29年9月で1,009例と、法人化前の2倍となった。即ち、入院から外来への流れが実現し、それにより患者さんの生活の質が改善し、更に、患者さんの精神的・経済的サポート等も開始している。
⑦ 進行がん治療の夜明け (為す術がなかった患者さんへ)
[オラパリブ]
GAC (Genome Analysis Center – ゲノム解析センター) で行われた、遺伝性乳癌・卵巣がんの原因遺伝子であるBRCAの遺伝子解析に基づき (Sakamoto I et al. Cancer 2016; 122; 84-90)、H28年1月より、従来治療法の無かった進行性卵巣癌に対して新薬オラパリブ (PARP阻害剤) の日本初の投与が開始された。それから1年10ヶ月良好な経過を辿っている。2例目もH28年8月より開始され、順調である。これは、国際的に認められているManaged Access Program、或いはCompassionate Useの方式に乗っ取って、国際的第三者機関に申請を行い、その認可のもとに開始された。
[免疫チェックポイント阻害剤 (ICI – Immune checkpoint inhibitor)、オプジーボ・キイトルーダ]
H26年7月に認可された免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) は、黒色腫につづき肺、胃癌に使用可能となった。胃癌はH29年9月に認可されたばかりであるが、2週間に1回の注射で、自身50年間の臨床で経験したことのない画期的効果を経験している。一例を挙げると、7リットルの癌性腹水の穿刺を強いられていた患者さんが、3回目の治療で、癌性腹水がほぼ消失した。 肺癌は50例にICI投与、2割で長期生存が得られている。薬剤の効果予測として当院では、遊離核配DNA (ctDNA – circulating Tumor DNA) を用い、非奏効例の同定という論文 (Iijima, et al. Eur J Cancer 2017; 86: 349-357 Very early response of circulating tumour–derived DNA in plasma predicts efficacy of nivolumab treatment in patients with non–small cell lung cancer) を発表した。Pub Med Trending Articles リストによると、世界のDownload数42位にランクされた。ICIを核とした、進行癌/手遅れ癌の治療の “夜明け” を感じる。即ち、為す術もなかった患者さんが、長期生存、それも外来の注射で可能となった時代の幕開けである。
⑧ ロボット手術
ロボット手術機器Da VinciのXi型の新規購入による癌の先端医療が開始された。H28年6月よりスタートした前立腺がんに加え、新たにH28年8月より保険承認された腎がんのロボット手術がスタート、H28年12月までの7ヶ月間に前立腺がん15例、胃がん3例、計18例が施行された。更に、Da Vinci Xiによる広汎子宮全摘術が倫理委員会承認のもと先進医療を目指し、第一例目がH28年8月8日に行われ、12月末までに6例が行われた。術後の早期回復など、極めて良好な結果を得ている。
⑨ 急増する肺がん
急増する肺がんは、社会問題化している。当院は、内科と外科が連携して呼吸器病センターを新たに発足し、365日24時間対応の “肺がんホットライン” をスタートした。肺癌の年間手術例数は200例を伺う勢いであり、従来の5~7倍増である。更に、リハビリテーション部との連携による癌リハはH28年4月より開始されている。
⑩ 山梨県におけるC型肝炎の完全撲滅と肝癌死亡者数の減少
本県は、日本住血吸虫に端を発するC型肝炎ウイルス蔓延県であった。その結果、人口当たりの肝癌死亡者数が東日本第一位であった。その8割がC型肝炎患者だった。既に行った中央病院におけるC型肝炎のグローバル治験の結果 (Omata M. J Viral Hepat. 2014; 21:762-768、Lancet Infect Dis. 2015; 15: 645-653) 、H27年5月よりC型肝炎の唯一の核酸アナログ製剤であるソフォスブビルが投与可能となり、当院は515例の患者さんに治療が施され、99%の治癒率であった。
また、東日本における肝癌死亡者数第4位と改善した。更にC型肝炎の完全撲滅、延いては肝癌死亡者数の激減に努力を傾注している。
⑪ 精神科救急、児童思春期精神科医療の充実
北病院は、平均在院日数の減少に努め、H28年度は74日と全国の39病院中6位であった。同時に長期 (1年以上) 入院患者の退院につとめ、現在は20人 (H29年6月末) で、46人 (H24年6月末) と比べ56.5%減となった。H27年2月から開始された県の精神科救急医療体制の常時対応型病院として、24時間救急患者を受け入れる体制を構築し、県全入院の3割を受け入れている。
また、児童思春期外来の患者数は年々増加しており、H28年度283人の初診患者さん (H24年度 152名) であり、5年でほぼ倍増となった。中央病院と北病院が相互連携し、北病院医師による中央病院の思春期外来への支援も行い、精神科救急及び児童思春期精神科医療の充実を図っている。また、県内唯一の医療観察法に基づく指定入院医療機関であり、H22年7月開設以来、H28年度まで23名が入院、17名が退院した。また、近年の傾向として、アルコール依存症の治療の為の入院患者増が見られる。即ち、H24年度8人であったが28人と漸次増加し、H28年度は3.5倍増となり、今後も上昇すると考えられる。統合失調治療の切り札と言われるクロザピン治療は、三沢医師の海外留学経験を活かし、現在まで93例、全国第6位の実績を積んでいる。
⑫ DPC係数による中央病院の評価
病院の客観的評価としてDPC係数評価がある。図7に表された如く、H22年度DPC参加当初は341位だったものが、H26年度よりⅡ群になり、H28年度は23位と位置付けられた (図7)。
第一期中期計画においては、当初の目標だった①経営の改善、②研修医の確保、③医療の質の改善を目指して五年間を遂行した。H27年から始まった第二期中期計画においては、更に、医療をめぐる環境が大きく変化する中で、健全な経営を続け、先進医療等を含む高度先端医療を行うと同時に、中央病院及び北病院 が山梨県の基幹病院としての役割を発揮し、“明るい笑顔・明るい挨拶”で患者さんを“早くきれいに治す”努力を続けて行きたい。
宜しくご支援のほどお願い申し上げます。
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