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理事長挨拶

 

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 山梨県立病院機構(県立中央病院・県立北病院)
 理事長 小俣 政男 (Omata Masao)

 R2.8.31

信頼される病院を目指して

 第一期中期計画においては、当初の目標だった①経営の改善、②研修医の確保、③医療の質の改善を目指して五年間を遂行した。
 H27年から始まった第二期中期計画においては、更に、医療をめぐる環境が大きく変化する中で、健全な経営を続け、先進医療等を含む高度先端医療を行うと同時に、中央病院及び北病院が山梨県の基幹病院としての役割を発揮し、どこにも負けない患者さんを“早くきれいに治す”努力を続けて行きたい。
 宜しくご支援のほどお願い申し上げます。

 

第二期中期計画(H27~R元年度) の決算報告と取り組み

 地方独立行政法人山梨県立病院機構はH22年4月に発足し、第二期中期計画の最終年度である令和元年度の決算が整いましたので、柱1から柱6に沿って報告致します。

目次
柱1 法人決算
柱2 中央病院現状・展望
柱3 若手医師育成
柱4 学術活動
柱5 北病院現状・展望
柱6 医療救護活動の取組

柱1 法人決算

A)決算の状況

① R元年度決算

 総収入は 280.3億円 (H30 268.9億円)、総支出は 266.0億円 (H30 251.4億円) となった。 従って、収入は11.4億円、支出は14.6億円伸びた (図1)。
その結果、R元年の経常利益は14.2億円 (H30 17.4億円)、純利益は12.8億円 (H30 17.3億円)  (図1)となった。
 
図1. 令和元年度の収入・支出・経常利益及び純利益(H22以降の対比)

表1. 第二期 (H27~) 中期計画との比較

b) 第一期中期計画5年間純利益(H22~H26)純利益及び

  第二期中期計画5年 (H27~R元)の 純利益

 法人化発足直前のH21年度の累積損益は、-152.1億円であったが、H22年度からH26年度までの5年間の累計の純利益は42.6億円となり、第一期中期計画が終了した (図2)。

図2. 独立病院機構発足前の累積赤字(H13-H21)、法人化第一期五カ年(H22-H26)の累積黒字(純利益42.6億)及び第二期五カ年(H27-R1)の累積純利益76.5億
 この第一期中期計画中の純利益42.6億円は、第二期の建設改良費として、最新機器の購入等に用いる。
 H27年度から始まった第二期中期計画では、更に強靭な経営体質を確立するために、黒字の累積を第二期の5年間で34億円と想定した。計画初年度であるH27年度純利益12.8億円、H28年度純利益は16.2億円、H29年度純利益は17.3億円、H30年度純利益は17.3億円、R元年度純利益は12.8億円、5年間で累計76.5億円となった(表1、図2)。これは、第二期中期計画累計の34億を42.5億円上回るものであり、令和2年度から始まった第三期中期計画へ安定した経済基盤を築くことができた。
 

c) DPC係数による中央病院の評価

 病院の客観的評価としてDPC係数評価がある如く、H22年度DPC参加当初は341位だったものが、H26年度よりⅡ群(H30年度より特定病院群)になり、R2年度は46位に位置付けられた (表2)。

柱2 中央病院の現状・展望

a) 救命救急医療体制の充実・強化

 中央病院は、第3次救急医療を担う病院として、ドクターヘリやドクターカーを活用し、 迅速で効率的な医療を提供してきた。また、H31年4月に、山梨県内唯一の高度救命救急センターの指定を受け、広範囲熱傷、指肢切断、急性中毒等、より高度で専門的な救急医療を提供できる体制を整備した。この高度救命救急センターでは、各消防本部からの要請により、24時間体制で3次救急患者を受けれ入れているが、本来、高度救命救急センターの対応症例でない2次救急患者や他の病院等で受け入れることができなかった重症患者についても、患者さんの重症度及び緊急性に応じて、柔軟に受け入れを行っており、法人化前 (H21年度) 対比で2次救急 (2.18倍)、1次救急他(1.53倍)と、3次救急 (0.94倍) に限定しない幅広い救急医を行っている (図3)。また、増加する救急患者への対応や3次救急以外の患者を診察する治療スペースを確保するため、令和2年3月に二次救急処置室の再整備を行い、幅広い救急医療体制の充実強化を図っている。

ドクターヘリとドクターカーの有機的運用

 H22年8月よりドクターカーを、H24年4月よりドクターヘリを運用し、現在までそれぞれ3,908回、3,234回の出動を行っている (図4)。当県は、甲府盆地を中心とする通称 “国中” と、山を隔てた周辺の “郡内” とに二分されている。国中は昼夜ともにドクターカー、昼間はドクターヘリで郡内までと、当県の地政学的有利性 (円形) と、当院の位置から極めて効果的な運用を行い、24時間体制で本県の救急医療を担っている。当院にさえたどり着けば “命が助かる” を目指していける。

b) 都道府県がん拠点病院機能強化

ATCC (Ambulatory Therapeutic Cancer Center) 通院型がんセンター

 当県には、がんセンターは存在しない。しかしながら、入院から外来への流れを癌治療の将来への主たる流れと考え、県の支援によりH25年1月に通院加療がんセンター (ATCC) を発足することができた (図5)。

 H22年法人化発足当時のがん化学療法の治療例数は、入院月間200人、外来200人強と、ほぼ同数であった。その後、ATCC通院型がんセンターがスタートし、入院での治療は、月間ほぼ200から300を推移しているが、外来でのがん治療患者数は月間900を超し、4.5倍強となった(図5)。総数も、直近のR2年3月で995例と、法人化前の2.9倍となった。即ち、入院から外来への流れが定着し、それにより患者さんの生活の質が改善し、今後、患者さんの精神的・経済的サポートがますます重要となってくる。

GAC (Genome Analysis Center) ゲノム解析センター活動

 GAC (Genome Analysis Center)は、当院のATCCに2013年に併設された。解析された遺伝子情報と臨床データの統合により、質の高い発表が2015年より相次ぎ、現在まで英文論文36編、学会発表184回が行われた。更に、安田記念医学財団 (弘津陽介)、日本遺伝子診療学会若手奨励賞 (雨宮健司) らの受賞者が相次いでいる。また、最近のゲノム医療の大きな展開により、当センターでの若手研修希望者が県内外 (大阪国際がんC、千葉大、慶応大、横浜市大等) から集まっている。

ゲノム診療部開設東京大学医学部との連携

 更に、H29年5月8日から、ゲノムカウンセリングからDNA解析、そして治療までを一連の流れとして患者さんの治療にあたるために、ゲノム診療部の運用を開始した。家族性乳癌・卵巣がん原因BRCA検査に基づく遺伝子カウンセリング、JAK2, V600E, RAS検査の院内化、さらにはIn houseのパネルを肺がん53遺伝子座 (287.520塩基)、肝がん72遺伝子座 (285.470塩基)、大腸がん60遺伝子座 (297.280塩基)、胃がん58遺伝子座 (351.050塩基)、泌尿器がん71遺伝子座 (365.340塩基)、乳がん53遺伝子座等 (286.750塩基) 作成し、パネルシークエンスをH25年6月からH31年3月まで2556検体で行った。また、東京大学医学部のゲノム連携病院として、先進医療施設に H31年2月1日に指定された。

ロボット手術 (Xi型 Da Vinci)

 内視鏡手術に加え(図6・左)、ロボット手術機器Da VinciのXi型の新規購入により、H28年6月からスタートした前立腺がんに加え、新たにH28年8月より保険承認された腎臓がんのロボット手術がスタート(図6)。
更に、Da Vinci Xiによる広汎子宮全摘術が倫理委員会承認のもと先進医療を目指し、第一例目がH28年8月8日に行われた(図6)。術後の早期回復など、極めて良好な結果を得ている。
 その後、H30年4月1日にロボット手術が12種 (縦隔悪性腫瘍手術、良性縦隔腫瘍手術、肺悪性腫瘍手術、食道悪性腫瘍手術、弁形成術、胃切除術、噴門側胃切除術、胃全摘術、直腸切除・切断術、膀胱悪性腫瘍手術、子宮悪性腫瘍手術、膣式子宮全摘術) の手術に保険が認められ、R2年3月31日現在、合計474例 (前立線がん173例、腎臓がん45例、子宮がん172例、胃・食道がん74例、縦隔腫瘍10例) が行われた(図6)。

進行がん治療の夜明け (為す術がなかった患者さんへ)

[オラパリブ]
 GAC (Genome Analysis Center – ゲノム解析センター) で行われた、遺伝性乳癌・卵巣がんの原因遺伝子であるBRCAの遺伝子解析に基づき (Sakamoto I et al. Cancer 2016; 122; 84-90)、H28年1月より、従来治療法の無かった進行性卵巣癌に対して新薬オラパリブ (PARP阻害剤) の日本初の投与が開始された。それから3年良好な経過を辿っている。2例目もH28年8月より開始され、順調である。これは、国際的に認められているManaged Access Program、或いはCompassionate Useの方式に則って、国際的第三者機関に申請を行い、その後、オラパリブは卵巣がん及び乳がんに認可され、2018年4月より保険診療が開始された。

[免疫チェックポイント阻害剤 (ICI – Immune checkpoint inhibitor)、オプジーボ・キイトルーダ等]
 H26年7月に認可された免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) は、黒色腫につづき肺癌、胃癌・腎癌・頭頸部癌に使用可能となった。胃癌はH29年9月に認可されたが、2週間に1回の注射で、自身50年間の臨床で経験したことのない画期的効果を経験している。一例を挙げると、7リットルの癌性腹水の穿刺を強いられていた患者さんが、3回目の治療で、癌性腹水がほぼ消失した。肺癌はH 31年1月現在103例にICI投与、3割で長期生存が得られている。薬剤の効果予測として当院では、遊離核配DNA (ctDNA – circulating Tumor DNA) を用い、非奏効例の同定という論文 (Iijima, et al. Eur J Cancer 2017; 86: 349-357 Very early response of circulating tumour–derived DNA in plasma predicts efficacy of nivolumab treatment in patients with non–small cell lung cancer) を発表した。Pub Med Trending Articles リストによると、世界のDownload数42位にランクされた。ICIを核とした、進行癌/手遅れ癌の治療の “夜明け” を感じる。即ち、為す術もなかった患者さんが、長期生存、それも外来の注射で可能となった時代の幕開けである。

[横断的がん治療の夜明け: マイクロサテライト不安定性がん]
 更に、H30年12月、マイクロサテライト不安定性を有する癌の全てに、キイトルーダが保険で使えることとなった。免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) が最も効果を発揮する癌の治療が可能となった。全がん種706例を調べ、11.5%の症例 (含む最頻度25%子宮体癌) でマイクロサテライト不安定性が認められた。これら進行がんにICIを投与することにより、5年生存率も期待できる。まさしく “夜明け” である。

山梨県におけるC型肝炎の完全撲滅と肝癌死亡者数の減少

 本県は、日本住血吸虫に端を発するC型肝炎ウイルス蔓延県であった。その結果、人口当たりの肝癌死亡者数が東日本第一位であった。その8割がC型肝炎患者だった。既に行った中央病院におけるC型肝炎のグローバル治験の結果 (Omata M. J Viral Hepat. 2014; 21:762-768、Lancet Infect Dis. 2015; 15: 645-653) 、H27年5月よりC型肝炎の唯一の核酸アナログ製剤であるソフォスブビルが投与可能となり、当院は515例の患者さんに治療が施され、99%の治癒率であった(読売新聞 H30年10月19日 C型肝炎根絶へ決定打・平成時代DNAの30年)。
 また、東日本における肝癌死亡者数第4位と改善した。更にC型肝炎の完全撲滅、ひいては肝癌死亡者数の激減に努力を傾注している。

柱3 若手医師の育成

 中央病院の医師総数をH13年から俯瞰して見ると、法人化当初のH22年度期首は144名、現在R2年度期首は203名と41.0%増加した (図7)。

 なかでも、若手医師、即ち31名の初期研修医 と39名の後期研修医 (専修医) 計70名は、法人化発足H22年度期首41名と比し、71.0%増であり、これは卒後6年以降の常勤医師の伸び率、H22年度期首103名であったものが、現在R2年度期首133名の29.1%増と比べると明らかに多い (図7)。
 病院活性化の根源である若手医師不足解消は、多くの職員の努力によって、当機構では著しく改善している。即ち、病院中に多くの若手医師が “目立つ” 。

a) 後期研修制度の充実

 H30年度から開始された新専門医制度は、初期研修につづき、内科、救命救急、整形外科、総合診療部などを核 (中央病院基幹プログラム) として開始された。初期研修から後期研修という一連の流れを定着させるため、日本の全ての病院が制度充実を目指すべきと考えている。地域中核と呼ばれる多くの病院がプログラムをつくり、知恵を出し合うことにより 、地域医療の充実につながる、それが国の目指す方向と考えている。
 H30年4月からは内科5人、救命1人が中央病院基幹プログラムに、北病院精神科プログラムに1人、計7人が専攻医第一期生となり、他病院を基幹プログラムとする4人 (内科1人、外科1人、産婦人科2人、精神科1人) と合わせ計12人が、H30年4月より後期研修に入った。
 H31年度4月からは、新たに中央外科基幹プログラムもスタートした。基幹プログラム8人 (内科2人、外科2人、救急2人、精神科2人) 、連携6人(内科2人、整形外科1人、小児科1人、産婦人科1名、皮膚科1人)の計14人でスタートした。

b) 臨床研究の推進

 若手医師の育成・強化の骨格となるのは臨床での教育はもとより、臨床研究を遂行する体制の確立である。
当機構では、初期研修2年終了時の研究発表として、Cohort研究が推進され、その内容は極めて優れたものが多い。これは、当院に蓄積された臨床データ-を上級医と初期研修医が共同作業を行い、臨床的研究成果として発表するものである。さらに、後期研修 (専攻医) による質の高い発表が期待されている。

c) 若手医師海外留学制度

 当機構職員には、海外留学の際、本俸の70%程度が支給されるという規定がある。H27年度、北病院からニューヨークへの留学者が出た。目的の明確な留学であり、当県の医療の質向上に寄与するものと考えられる。三澤史斉医師がその第一号となり、この制度により海外留学を行った。帰国後の当県の精神科医療向上が期待されている。

柱4 学術活動;学会・論文発表

 当県の “医療の質向上” が法人発足時の三大目標の一つであった。その客観的指標は院内、県内にとどまることなく、国の内外での学会・研究会の発展、並びに厳しいReviewプロセスを経た論文発表と考える。
 県立中央病院の学術活動として、R元年度英文論文は41、邦文論文は53、合計94。また学会等の発表は、国外が15、国内506、合計521という膨大な数にのぼった (図8)。

柱5 北病院の現状・展望

 北病院は、平均在院日数の減少に努め、H30年度は72.2日と全国の38病院中6位であった。
 同時に長期(1年以上)入院患者の退院につとめ、現在は14人(H31年3月末)で、25人(H27年3月末)と比べ44.0%減となった。

a) 精神科救急

 H27年2月から開始された県の精神科救急医療体制の常時対応型病院として、24時間救急患者を受け入れる体制を構築し、県全入院の3割を受け入れている。

b) 児童思春期精神科医療

 児童思春期外来、また、児童思春期外来の患者数は年々増加しており、R元年度260人の初診患者数(H26年度192人)であり、5年で約1.4倍となった。中央病院と北病院が相互連携し、北病院医師による中央病院の思春期外来への支援も行い、精神科救急及び児童思春期精神科医療の充実を図っている。

c) 医療観察法

 県内唯一の医療観察法に基づく指定入院医療機関であり、H22年7月開設以来R2年3月まで30人が入院、25人が退院した。

d) アルコール依存症治療

 また、近年の傾向として、アルコール依存症治療の入院患者の増加が見られる。単に断酒を目的とするだけでなく、今後の人生や生活について考える場を提供しながら支援している。

e) 統合失調症治療

 統合失調治療の切り札と言われるクロザピン治療は、三澤医師の海外留学経験を活かし、134人(R2年3月末)に投与している。山梨県は人口10万人当たりのクロザピン使用患者数が全国上位であり、その大部分を北病院が実施している。 

柱6 医療救護活動の取組

 令和元年度は、台風19号による千曲川氾濫に伴い大きな被害を受けた長野県や新型コロナウイルスによる集団感染があったクルーズ船「ダイヤモンドプリンセス号」にDMAT隊員を派遣するなど、医療救護活動を積極的に行って参りました。特に、新型コロナウイルスについては、県からの要請に基づき、クルーズ船患者4名を含む新型コロナウイルス患者7名を受け入れました。クルーズ船患者の中には、人口呼吸器を装着するなど重症患者もいましたが、令和2年4月中には全員退院したところです。

まとめ

 県立中央病院及び県立北病院は、県の基幹病院として、先進医療を取り入れながら、職員一同“早くきれいに治す”を合言葉に、患者さんが一日も早く元気な姿でご家族の元にお帰りになれるよう取り組んで参る所存です。今後ともご支援のほどお願い申し上げます。

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