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(旧)理事長挨拶(H31.1.31)

理事長写真

 山梨県立病院機構(県立中央病院・県立北病院)
 理事長 小俣 政男 (Omata Masao)

 H31.1.31

 

H29年度 (第二期中期計画三年度) の決算報告と取り組み

 平成22年度にスタートした地方独立行政法人山梨県立病院機構は、H27年4月より、第二期中期計画5ヶ年が始まった。その第二期中期計画の三年度が終了したので、柱1から柱6に沿って報告致します。

目次
柱1 法人決算
柱2 中央病院現状・展望
柱3 若手医師育成
柱4 学術活動
柱5 北病院現状・展望
柱6 まとめ

柱1 法人決算

A)決算の状況

① H29年度決算

 総収入は 266.3億円 (H28 259.1億円)、総支出は 245.4億円 (H28 240.9億円) となった。 従って、収入は7.2億円、支出は4.5億円伸びた (図1)。
その結果、H29年の経常利益は20.9億円 (H28 18.2億円)、純利益は17.3億円 (H28 16.2億円) となり (図1)、法人化後8年で、経常利益、純利益ともに最大となった。
 
図1. 平成29年度の収入・支出・経常利益及び純利益(H22以降の対比)

 

表1. 第二期 (H27~) 中期計画との比較

b) 第一期中期計画5年間 (H22~H26年度)純利益及び第二期中期計画第三年度 (H27~H29) 純利益

 法人化発足直前のH21年度の累積損益は、-152.1億円であったが、H22年度からH26年度までの5年間の累計の純利益は42.6億円となり、第一期中期計画が終了した (図2)。

図2. 独立病院機構発足前の累積赤字(H13-H21)、法人化第一期五カ年(H22-H26)の累積黒字(純利益42.6億)及び第二期初年度・第二年度・第三年度(H27-H29年度)の累積純利益46.3億
 
 この第一期中期計画中の純利益42.6億円は、第二期の建設改良費として、最新機器の購入等に用いる。
 H27年度から始まった第二期中期計画では、更に強靭な経営体質を確立するために、黒字の累積を第二期の5年間で34億円と想定した。計画初年度であるH27年度純利益12.8億円、H28年度純利益は16.2億円、H29年度純利益は17.3億円、3年間で累計46.3億円となった(表1、図2)。これは、第二期中期計画三カ年(H27・28・29)累計の26億を20.3億円、また全5カ年間での累計純利益34億円(計画)を、すでに11億余り上回っている (表1)。
 

c) DPC係数による中央病院の評価

 病院の客観的評価としてDPC係数評価がある如く、H22年度DPC参加当初は341位だったものが、H26年度よりⅡ群になり、H30年度は40位と位置付けられた (表2)。

 

柱2 中央病院の現状・展望

a) 救命救急医療体制充実・強化

 中央病院は、第3次救急医療を担う病院として、ドクターヘリやドクターカーを活用し、 迅速で効率的な医療を提供してきた。 更に、患者さんの重症度及び緊急性に柔軟に対応するために、3次救急のみならず、法人化前 (H21年度) 対比で2次救急 (2.06倍)、1次救急他1.78倍と、3次救急 (1.25倍) に限定しない幅広い救急医を行っているのが、近年の当院の救急医療の特徴である (図3)。また、H27年度に開設した総合診療科と救命救急センターとが一体化した、幅広い救急医療体制の充実強化を図っている。

ドクターヘリとドクターカーの有機的運用

 H22年8月よりドクターカーを、H24年4月よりドクターヘリを運用し、現在までそれぞれ3,908回、3,234回の出動を行っている (図4)。当県は、甲府盆地を中心とする通称 “国中” と、山を隔てた周辺の “郡内” とに二分されている。国中は昼夜ともにドクターカー、昼間はドクターヘリで郡内までと、当県の地政学的有利性 (円形) と、当院の位置から極めて効果的な運用を行い、24時間体制で本県の救急医療を担っている。当院にさえたどり着けば “命が助かる” を目指していける。

b) 都道府県がん拠点病院機能強化

ATCC (Ambulatory Therapeutic Cancer Center) 通院型がんセンター

 当県には、がんセンターは存在しない。しかしながら、入院から外来への流れを癌治療の将来への主たる流れと考え、県の支援によりH25年1月に通院加療がんセンター (ATCC) を発足することができた (図5)。

 H22年法人化発足当時のがん化学療法の治療例数は、入院月間200人、外来200人強と、ほぼ同数であった。その後、ATCC通院型がんセンターがスタートし、入院での治療は、月間ほぼ200から300を推移しているが、外来でのがん治療患者数は月間700を超し、3.5倍強となった(図5)。総数も、直近のH31年1月で995例と、法人化前の2.5倍となった。即ち、入院から外来への流れが定着し、それにより患者さんの生活の質が改善し、今後、患者さんの精神的・経済的サポートがますます重要となってくる。

GAC (Genome Analysis Center) ゲノム解析センター活動

 GAC (Genome Analysis Center)は、当院のATCCに2013年に併設された。解析された遺伝子情報と臨床データの統合により、質の高い発表が2015年より相次ぎ、現在まで英文論文36編、学会発表184回が行われた。更に、安田記念医学財団 (弘津陽介)、日本遺伝子診療学会若手奨励賞 (雨宮健司) らの受賞者が相次いでいる。また、最近のゲノム医療の大きな展開により、当センターでの若手研修希望者が県内外 (大阪国際がんC、千葉大、慶応大、横浜市大等) から集まっている。

ゲノム診療部開設東京大学医学部との連携

 更に、H29年5月8日から、ゲノムカウンセリングからDNA解析、そして治療までを一連の流れとして患者さんの治療にあたるために、ゲノム診療部の運用を開始した。家族性乳癌・卵巣がん原因BRCA検査に基づく遺伝子カウンセリング、JAK2, V600E, RAS検査の院内化、さらにはIn houseのパネルを肺がん53遺伝子座 (287.520塩基)、肝がん72遺伝子座 (285.470塩基)、大腸がん60遺伝子座 (297.280塩基)、胃がん58遺伝子座 (351.050塩基)、泌尿器がん71遺伝子座 (365.340塩基)、乳がん53遺伝子座等 (286.750塩基) 作成し、パネルシークエンスをH25年6月からH31年3月まで2556検体で行った。また、東京大学医学部のゲノム連携病院として、先進医療施設に H31年2月1日に指定された。

 

ロボット手術 (Xi型 Da Vinci)

 内視鏡手術に加え(図6・左)、ロボット手術機器Da VinciのXi型の新規購入により、H28年6月からスタートした前立腺がんに加え、新たにH28年8月より保険承認された腎がんのロボット手術がスタート(図6)。
更に、Da Vinci Xiによる広汎子宮全摘術が倫理委員会承認のもと先進医療を目指し、第一例目がH28年8月8日に行われた(図6)。術後の早期回復など、極めて良好な結果を得ている。
 その後、H30年4月1日にロボット手術が12種 (縦隔悪性腫瘍手術、良性縦隔腫瘍手術、肺悪性腫瘍手術、食道悪性腫瘍手術、弁形成術、胃切除術、噴門側胃切除術、胃全摘術、直腸切除・切断術、膀胱悪性腫瘍手術、子宮悪性腫瘍手術、膣式子宮全摘術) の手術に保険が認められ、H30年12月31日現在、合計209例 (胃がん16例、食道がん1例、腎がん31例、前立線がん111例、子宮腫瘍50例) が行われた(図6)。

進行がん治療の夜明け (為す術がなかった患者さんへ)

[オラパリブ]
 GAC (Genome Analysis Center – ゲノム解析センター) で行われた、遺伝性乳癌・卵巣がんの原因遺伝子であるBRCAの遺伝子解析に基づき (Sakamoto I et al. Cancer 2016; 122; 84-90)、H28年1月より、従来治療法の無かった進行性卵巣癌に対して新薬オラパリブ (PARP阻害剤) の日本初の投与が開始された。それから3年良好な経過を辿っている。2例目もH28年8月より開始され、順調である。これは、国際的に認められているManaged Access Program、或いはCompassionate Useの方式に乗っ取って、国際的第三者機関に申請を行い、その後、オラパリブは卵巣がん及び乳がんに認可され、2018年4月より保険診療が開始された。

[免疫チェックポイント阻害剤 (ICI – Immune checkpoint inhibitor)、オプジーボ・キイトルーダ等]
 H26年7月に認可された免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) は、黒色腫につづき肺、胃癌・腎癌・頭頸部癌に使用可能となった。胃癌はH29年9月に認可されたが、2週間に1回の注射で、自身50年間の臨床で経験したことのない画期的効果を経験している。一例を挙げると、7リットルの癌性腹水の穿刺を強いられていた患者さんが、3回目の治療で、癌性腹水がほぼ消失した。肺癌はH 31年1月現在103例にICI投与、3割で長期生存が得られている。薬剤の効果予測として当院では、遊離核配DNA (ctDNA – circulating Tumor DNA) を用い、非奏効例の同定という論文 (Iijima, et al. Eur J Cancer 2017; 86: 349-357 Very early response of circulating tumour–derived DNA in plasma predicts efficacy of nivolumab treatment in patients with non–small cell lung cancer) を発表した。Pub Med Trending Articles リストによると、世界のDownload数42位にランクされた。ICIを核とした、進行癌/手遅れ癌の治療の “夜明け” を感じる。即ち、為す術もなかった患者さんが、長期生存、それも外来の注射で可能となった時代の幕開けである。

[横断的がん治療の夜明け: マイクロサテライト不安定性がん]
 更に、H30年12月、マイクロサテライト不安定性を有する癌の全てに、キイトルーダが保険で使えることとなった。免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) が最も効果を発揮する癌の治療が可能となった。全がん種706例を調べ、11.5%の症例 (含む最頻度25%子宮体癌) でマイクロサテライト不安定性が認められた。これら進行がんにICIを投与することにより、5年生存率も期待できる。まさしく “夜明け” である。

山梨県におけるC型肝炎の完全撲滅と肝癌死亡者数の減少

 本県は、日本住血吸虫に端を発するC型肝炎ウイルス蔓延県であった。その結果、人口当たりの肝癌死亡者数が東日本第一位であった。その8割がC型肝炎患者だった。既に行った中央病院におけるC型肝炎のグローバル治験の結果 (Omata M. J Viral Hepat. 2014; 21:762-768、Lancet Infect Dis. 2015; 15: 645-653) 、H27年5月よりC型肝炎の唯一の核酸アナログ製剤であるソフォスブビルが投与可能となり、当院は515例の患者さんに治療が施され、99%の治癒率であった(読売新聞 H30年10月19日 C型肝炎根絶へ決定打・平成時代DNAの30年)。
 また、東日本における肝癌死亡者数第4位と改善した。更にC型肝炎の完全撲滅、ひいては肝癌死亡者数の激減に努力を傾注している。

柱3 若手医師の育成

 中央病院の医師総数をH13年から俯瞰して見ると、法人化当初のH22年度期首は144名、現在H30年度期首は186名と29%増加した (図7)。

 なかでも、若手医師、即ち32名の初期研修医 と36名の後期研修医 (専修医) 計68名は、法人化発足H22年度期首41名と比し、66%増であり、これは卒後6年以降の常勤医師の伸び率、H22年度期首103名であったものが、現在H30年度期首118名の12%増と比べると明らかに多い (図7)。
 病院活性化の根源である若手医師不足解消は、多くの職員の努力によって、当機構では著しく改善している。即ち、病院中に多くの若手医師が “目立つ” 。

a) 後期研修制度の充実

 H30年度から開始された新専門医制度は、初期研修につづき、内科、救命救急、整形外科、総合診療部などを核 (中央病院基幹プログラム) として開始された。初期研修から後期研修という一連の流れを定着させるため、日本の全ての病院が制度充実を目指すべきと考えている。地域中核と呼ばれる多くの病院がプログラムをつくり、知恵を出し合うことにより 、地域医療の充実につながる、それが国の目指す方向と考えている。
 H30年4月からは内科5人、救命1人が中央病院基幹プログラムに、北病院精神科プログラムに2人、計8人が専攻医第一期生となり、他病院を基幹プログラムとする4人 (内科1人、外科1人、産婦人科2人) と合わせ計12人が、H30年4月より後期研修に入った。
 H31年度4月からは、新たに中央外科基幹プログラムもスタートした。基幹プログラム8人 (内科2人、外科2人、救急2人、精神科2人) 、連携6人の計14人でスタートした。

b) 臨床研究の推進

 若手医師の育成・強化の骨格となるのは臨床での教育はもとより、臨床研究を遂行する体制の確立である。
当機構では、初期研修2年終了時の研究発表として、Cohort研究が推進され、その内容は極めて優れたものが多い。これは、当院に蓄積された臨床データ-を上級医と初期研修医が共同作業を行い、臨床的研究成果として発表するものである。さらに、後期研修 (専攻医) による質の高い発表が期待されている。

c) 若手医師海外留学制度

 当機構職員には、海外留学の際、本俸の70%程度が支給されるという規定がある。H27年度、北病院からニューヨークへの留学者が出た。目的の明確な留学であり、当県の医療の質向上に寄与するものと考えられる。三澤史斉医師がその第一号となり、この制度により海外留学を行った。帰国後の当県の精神科医療向上が期待されている。

柱4 学術活動;学会・論文発表

 当県の “医療の質向上” が法人発足時の三大目標の一つであった。その客観的指標は院内、県内にとどまることなく、国の内外での学会・研究会の発展、並びに厳しいReviewプロセスを経た論文発表と考える。
 県立中央病院の学術活動として、H29年度英文論文は56、邦文論文は40、合計96。また学会等の発表は、国外が31、国内596、合計627という膨大な数にのぼった (図8)。

柱5 北病院の現状・展望

 北病院は、平均在院日数の減少に努め、H29年度は73日と全国の38病院中5位であった。同時に長期 (1年以上) 入院患者の退院につとめ、現在は15人 (H30年12月末) で、31人 (H26年3月末) と比べ51.6%減となった。

a) 精神科救急

 H27年2月から開始された県の精神科救急医療体制の常時対応型病院として、24時間救急患者を受け入れる体制を構築し、県全入院の3割を受け入れている。

b) 児童思春期精神科医療

  児童思春期外来、また、児童思春期外来の患者数は年々増加しており、H29年度290人の初診患者数 (H25年度 176名) であり、5年で約1.6倍となった。中央病院と北病院が相互連携し、北病院医師による 中央病院の思春期外来への支援も行い、精神科救急及び児童思春期精神科医療の充実を図っている。

c) 医療観察法

 県内唯一の医療観察法に基づく指定入院医療機関であり、H22年7月開設以来、H30年12月まで26名が入院、22名が退院した。

d) アルコール依存症治療

 また、近年の傾向として、アルコール依存症の治療の為の入院患者増が見られる。即ち、H25年度18人であったが22人 (H30年12月末) と増加している。H28年度は3.5倍増となり、今後も上昇すると考えられる。

e) 統合失調症治療

 統合失調治療の切り札と言われるクロザピン治療は、三澤医師の海外留学経験を活かし、107人 (H30年12月末) に投与しており、人口あたりクロザピン使用患者数は全国第3位 (H28年度630調査) の実績を積んでいる。

柱6 まとめ

 第一期中期計画においては、当初の目標だった①経営の改善、②研修医の確保、③医療の質の改善を目指して五年間を遂行した。
 H27年から始まった第二期中期計画においては、更に、医療をめぐる環境が大きく変化する中で、健全な経営を続け、先進医療等を含む高度先端医療を行うと同時に、中央病院及び北病院が山梨県の基幹病院としての役割を発揮し、どこにも負けない患者さんを“早くきれいに治す”努力を続けて行きたい。
 宜しくご支援のほどお願い申し上げます。

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