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なんとかなるよ統合失調症 がんばりすぎない闘病記

:森実恵
出版社
:解放出版社

 統合失調症を発病した当事者の半生記です。第二子出産のあと体調を崩し、入院した内科の病院ではじめてテレパシーが聞こえるようになった森さんは、活発な幻聴や妄想に支配されて一時は混乱を極めたようです。精神科病院からようやく退院したその当日、夫から即刻、離婚を求められ、ボストンバッグたった一つで実家に帰されてしまいました。大学時代の知人に病名を話したところ、いきなり電話を切られてしまったこともあったそうです。森さんによると、発病後はとにかく疲れやすくなり、仕事に就いても思うように勤まらない日々が何年間も続きました。
 本書はまさに森さんの闘病記なのですが、森さんの幻覚や妄想は日常生活に不思議に溶け込んでおり、意味不明の体験などではなく、森さんの真面目な人柄とは切り離せないものということが分かります。つらい体験は、本当は誰かと共有したいのに、胸のうちにしまい込んだまま、自由に語ることもできない日々を送っているそうです。
 森さんは、病気を理由にして自分の生活を内向きにはしませんでした。突如、物書きを目指したというのがやや無茶苦茶ではありますが、独特の頑張りによって本の出版も果たし、講演活動を通じて「病気になってもなんとかなる」というメッセージを当事者や家族に送っておられます。その活動にも敬意を表しますが、それだけでなくわたしは、「考想化声」のことを森さんが「最も恐ろしい幻聴」と位置づけている(考想化声として聞こえる声は、自分の意思をたくみにとりこんでいるため、自分の考えなのか幻聴なのか分からなくなってしまい、行動化をおさえることがときに難しい)ことなどは医学的に見ても見事な洞察だと思いました。

(精神科医局 宮田量治)

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