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自閉症の僕が跳びはねる理由 会話のできない中学生がつづる内なる心

:東田直樹
出版社
:エスコアール

 どうして飛び跳ねるのか。どうして大きな声を出すのか。どうしてミニカー遊びが好きなのか。本書では、ことばや感覚の違い、興味や関心のことなど、重度の自閉症のひとには聞けなかったぶしつけな質問に、当時中学生だった東田さんが的確に回答してくれています。そして、素人の私が言うのもなんですが、東田さんの文章は、本書の至るところで一編の詩になっている。意図して書かれた詩文ではなく、これが東田さんの普段体験されている「自閉の世界」。

 この文章を本当に自閉症の方が書いたのか信じられなかったわたしは、こっそりYouTubeの動画を拝見しました。が、しかし、そこには紛れもなく、文字盤をあやつる自閉症の東田さんがおられました。ああ、もしこの本がなかったら、わたしはたぶん一生、表現手段をもたない方々の内面にある豊かさに気付くことはなかったと思います。

 わたしは、精神科医として、人前で大きな声を出したり落ち着かなかったりと、コントロールできない行動に精神安定剤を勧めることがあります。しかし、付き添いの親御さんから薬を拒否されることが少なくありません。親御さんは、病院(=社会)の論理で、障害はあっても病気でないお子さんの行動をしばりたくないのでしょう。

 普通のひとと見えているものが違う。記憶の仕方も体の使い方も違う。東田さんは、そういうギャップに苦しみもがき、自分の行動原理を深く考えるようになったのだろうと思いました。周りから誤解される東田さんの毎日は過酷なものと言わざるをえないでしょう。それでも東田さんは、社会に信頼を寄せ、諦めていません。普通と自閉の2つの世界に橋をかけるように、途方もない努力を重ね、文字盤にたどたどしく指を差し、生き生きとした言葉をつむぎ出す。

 本書には続編として「続・自閉症の僕が跳びはねる理由 会話のできない高校生がたどる心の軌跡」(2010)、「跳びはねる思考 会話のできない自閉症の僕が考えていること」(2014)もあり、東田さんのさらなる深化がうかがえます。自閉の世界を的確に表現し、ひとの多様性に気付かせてくれる東田さんには今後も注目していきたい。

(精神科医局 宮田量治)

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