メニュを開く メニュ
文字サイズ 標準

「ひきこもり」経験の社会学

[表紙]「ひきこもり」経験の社会学
:関水徹平
出版社
:左右社

 自室に閉じこもっているのは、ひきこもり事例のわずか3%に過ぎないことなど、私たちはひきこもりの実態についてあまりにも知らない。 若手研究者による本書は、上山和樹氏、勝山実氏(いずれもひきこもり当事者)の著作や著者がインタビューしたひきこもり当事者のコメントが多数紹介されており、 一般の読者にはやや難しい部分もあるものの、ひきこもりについて深く理解するための最良の一冊である。

 ひきこもり当事者は、長い間、「学校を出て働く」という日本社会の多数派の価値観に沿って生きられないつらさを感じ、他のひとと同じようにできない自分を責める自問自答に窮している。 しかし当事者が追い込まれるのは、人の多様性を余りにも許容しない日本の社会にも原因があるという。 個人が自分の人生について自分なりの見解(語り)を持てるようになることがひきこもりからの脱却につながるのであって、一様にひきこもり当事者を就労へ向かわせようとする国の施策には弊害もある。 曲折の末、社会的価値観に復帰する者もあれば、切実な自分自身のオルタナティブ・ストーリーに思い至る者もある。 そのどちらでも素晴らしいのだということが本書により実感できる。

(精神科医局 宮田量治)

ページの
先頭に戻る