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僕の父は母を殺した

:大山寛人
出版社
:朝日新聞出版

 ショッキングなタイトル通り、本書著者の大山さんは、殺人事件の加害者家族で、被害者遺族でもあるという複雑な立場から、加害者たる父のことが受け入れられるようになるまでの複雑で切実な思いを、実名であらわしました。

 大山さんの楽しい生活が一変したのは12歳のとき。家族で夜釣りに来ていた港の桟橋から海へ、車内で眠っていたはずのお母さんが転落して亡くなる事故が起きたからでした。寂しさに耐えるばかりの父と子二人きりの生活は、やがて夜逃げを繰り返すような貧困生活となり、事故から2年後のある日、父の突然の逮捕。その後の大山さんは、連続保険金殺人犯の息子、カエルの子はカエルなどと言われ、まわりから白い目で見られるようになりました。やり場のない怒りを抱えた大山さんは、ケンカ、万引き、シンナーなどの非行に走り、ついにはホームレスや自殺未遂を経験しても、現実を受け入れられませんでした。

 事件から3年半後、第一審で死刑判決が出た父に、大山さんは面会を申し込みます。ただ父を罵倒するために。ところが、面会した大山さんは、父を責めることができませんでした。最初の面会のときの父は、ごめんごめんと謝るばかりで、あまりにも変わり果てた小さな姿をしていたからです。面会を重ねるうち大山さんは、事件を許すことはできないけど、受け入れることはできるようになっていきます。すべての親族から反対される中、もうひとりの大切な家族を失いたくないと、法廷で父の死刑判決に反対する証言も行いました。

 日本には、極めて重大な犯罪行為には死刑の選択肢しかありませんが、唯一の肉親である父を死なせたくないという大山さんの願いは本当に切実です。生きて罪を償って欲しいという被害者遺族の悲痛な言葉に私たちはどう関わっていけばよいのか。大山さんから発せられた問いはほんとうに大きな問いだと思います。

(精神科医局 宮田量治)

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