統合失調症から教わった14のこと
統合失調症の発病から26年を過ごした中山さんのありのままの日常がつづられたブックレットです。本書には「牛乳箱の積み込み作業」と題された写真が1枚掲載されています。統合失調症の絶望と闘ってきた中山さんの本当にすがすがしいお顔を拝見することができます。わたしの周りにも中山さんのような方はたくさんいらっしゃいますが、一般の方が統合失調症の方の飾らない写真を目にする機会は少ないので、この写真はとても貴重だと思います。
小学校教師をされていた中山さんは32歳で統合失調症を発病。はじめ、宙にふわっと浮いたような地に足がつかないような感覚におそわれ、見慣れた校舎は「墨絵の世界」に変わってしまいました。精神科病院へ6度の入院を繰り返し、12年にも及ぶ入院。その間に仕事も家族(20年連れ添った妻や子供達)も新築した家もすべて失いました。中山さんは長い入院で社会に出ることを諦めていましたが、恩師との再会によって「再び社会に出よう」と決心。5ヶ月後に親の反対を押し切って退院し、アパートの一人暮らしを始めました。当事者活動「スピーカーズ・ビューロー岡山」や「きょうされん(共同作業所全国連絡会)」に参加するようになり自信も回復していきます。プライドが高くひとりで抱え込んでしまうタイプだった中山さんは「できるだけでよい」、「決して無理はせず、あるがまま」の生き方が肯定できるようになりました。
本書には、統合失調症で体験される幻聴や妄想への言及はありませんが、外からの刺激や変化に敏感なこと、根気が長く続かないことで、中山さんの病後の生活は一変してしまったことがうかがえます。そのような病苦を抱えつつも、仲間をいたわりながら生きる中山さんは本当に尊い。
本書出版は、知り合いから「恥」と言われ、中山さんに葛藤もありましたが、信頼する担当医に相談し、出版の決意を固めたそうです。本書を発刊したラグーナ出版は、鹿児島市内にある小さな出版社ですが、こころの病と闘っている方の投稿作品を掲載した「シナプスの笑い」を10年以上も発行しており、この息の長い地道な活動に頭が下がります。
(精神科医局 宮田量治)