注文をまちがえる料理店のつくりかた
認知症の当事者の方がウエイトレス、ウエイターとして働く期間限定のレストラン「注文をまちがえる料理店」。その開店時の様子が多数の写真とともに紹介された心温まる本です。認知症介護の実態を取材したテレビディレクターの小国さんのひらめきからはじまったこの企画は、世界中から注目されましたが、実際はどうだったのでしょうか。
電車の運行も、宅配便の配達も、コンビニの対応も、お客様本位で正確に実施されるのが当たり前になっているいまの日本社会で、レストランがお客様の注文をまちがえる。そんなことが許されるはずがありません。「作り直せ」と言われるどころか、怒り狂った客からミスに釣り合わないような謝罪を求められることもあると聞きます。ところが、「注文をまちがえる料理店」では、間違いに目くじらを立てず、食事のひとときを楽しむお客さんで連日にぎわったそうです。この企画の成功は、各界のプロが集まり、必ず成功させようという熱意と戦略があったたからだと思いますが、場所選びからはじまって、オリジナルメニューの準備、認知症の人が給仕しても間違いづらい手順づくりなど随所に的確な判断が働き、運営においては、やる側の自己満足に終わらせない、最高の料理店でお客様をもてなしたいとの趣旨があったことも知りました。認知症のウエイトレスさんは、ただやってみたいという本人の思いだけでなく、歩行に問題がない、ものを持って運べる腕力がある、排泄に問題がない、会話を楽しめる、過去に接客経験があることなどを基準に選ばれたそうです。本書には、町田市で「注文をまちがえるカフェ」がオープンした際、認知症の当事者から、店名が「認知症者がまちがえることを前提にしていて馬鹿にしている」と批判されたことや、業界のプロから「常設店にするのは難しい」と指摘されたことなども書かれています。それでも「注文をまちがえる料理店」にわくわくするのはなぜなのか。ひとの間違いに寛容であれ。それがどれほど温かくて人間的なのか、ひとを安心させるのかを、思い出させてくれるからでしょうか。
この素晴らしい企画のコンセプトは、今後、形は変わっても、多くのひとに受け継がれ、社会に受け入れられるようになったら素敵だと思います。わたしも是非訪れてみたいです。
(精神科医局 宮田量治)