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蛭子能収のゆるゆる人生相談

:蛭子能収
出版社
:光文社

 ときどきテレビに出ていて、視聴者のことをほのぼのと裏切り続ける蛭子能収(えびすよしかず)さんの人生相談本です。蛭子さんの本業は実は漫画家。競艇好きでも有名だそうです。

 人生相談本は、さまざまな悩みへの回答を通して、回答者自身の人生哲学をうかがえるところが面白いのですが、蛭子さんの回答には飾り気もなく、文学的な感動はまったくありません。しかし蛭子さんは人生のさまざまな難問をいともあっさりクリアしている。この本は蛭子さんの常識破りの回答に満ちていいて、固く、真面目にものごとを考え過ぎることがアホらしくなってきます。

 蛭子さんは、高卒後、貧乏生活に耐えながら愚直に漫画家を目指した面もあるので、ただのおじさんでないことは薄々分かっていたのですが、「ひとからどう思われるかなんてどうでもいい」とか「トロイことも個性ですよ。それを自分のネタにしてみたらどうでしょうか」とか言われてしまうと、小気味よいパンチがきいて、真面目な精神科医のわたしには到底かなわない説得力があります。

 この本の表紙写真にたたずむ蛭子さんはまことに風采のあがらない中年男性。人間は自由に生きればいいということを、どんな人が見ても分かるように可視化してくれているおじさんとも言えるでしょう。蛭子さんが鋭いところは、ただ闇雲に自由を謳歌しているのではなく、「自由には責任が伴う。借金は絶対しない。仕事で輝くのではなく競艇(注:趣味)で輝くべし」などとして、守るべきルールは守り、贅沢はせず、コツコツ人生を歩んできたところだと思います。このような堅実さと趣味の競艇(ギャンブル)にギャップがあるのが不思議と言えば不思議ですが、蛭子さんの場合それでバランスがとれているのかもしれません。蛭子さんのようには生きられない気もしますが、私たちは、ひとからよく思われよう、よく見られようとして、一番大事なはずの自分自身を犠牲にしてはもったいないと思いました。

(精神科医局 宮田量治)

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