うつヌケ

漫画家・田中圭一さんのうつ病体験、そして、うつ病にかかった16人(大槻ケンヂ・ロックミュージシャン、宮内悠介・小説家、一色伸幸・脚本家など各界の有名人も含まれる)の「うつヌケ」をまとめたコミックです。タイトルの「うつヌケ」とは、出口の見えないうつ病という真っ暗なトンネルから陽の降り注ぐ明るい外の世界へ出ることなのですが、コミックの中では、手塚治虫風の憎めないキャラクターとして登場する田中さんとアシスタントのカネコさんがさまざまな立場の16人からうつ病の体験をインタビューし、やがて、うつ病の本質にも迫っていきます。
意識的に自分を好きになる言葉を毎朝つぶやきつづけた。プライドを捨て泣きながら10年間疎遠になっていたお母さんに電話をかけた。インタビューを受けた各人の語るうつヌケのきっかけは、長いうつのどん底を経験したあと、社会に再び生還してきた人のまぎれもない洞察です。うつのトンネルは抜けられるという明るいメッセージにどれだけの多くの人が励まされることでしょう。そして、このコミックでは、うつ病の症状の影響からまわりの人の親切や気遣いが見えなくなってしまうことにまで言及されています。
精神科医としてわたしはうつ病に対して薬物療法や通電治療を行いますし、それらも大変有効な治療手段だと考えていますが、うつヌケできる見通しを持てることが当事者にとって切実ということを改めて感じました。
このコミックには5年、10年、15年という長いうつ病を体験された方々も登場されており、コミックが簡単に読めてしまうこととは裏腹に、うつヌケは決して簡単ではないこともうかがわれます。うつ病のトンネルに入ったと思ったら、とにかく焦らず自分を責めずに生き延びてほしい。周りのひとに助けを求めて欲しいんです。
(精神科医局 宮田量治)