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母さん、ごめん。50代独身男の介護奮闘記

:松浦晋也
出版社
:日経BP社

几帳面でまじめな理系の独身男性がアルツハイマー型認知症になったお母さんを3年間、在宅介護した経験を記した本です。松浦さんの本業は科学系ライター。小惑星探査機「はやぶさ」関連の本なども出版しており、本書も、自身の経験とは言え、認知症の在宅介護の実態をあらわした抑制のきいた読み物となっています。

松浦さんは、母の介護は敗戦続きだったと述懐していますが、終始、細やかな介護を実践しました。信頼を寄せるお母さんの能力の低下や失敗に直面することは衝撃だったに違いありません。だからこそ、松浦さんは、お母さんの認知症を否定したい気持ちが勝り、お母さんのあらが露見しないようにと役割を自分が引き継いた結果、家のこと全部を自分ひとりが抱え込んでしまい、仕事に支障をきたすまでに追い込まれていきました。きわまった状態の松浦さんは、遠方の兄弟から助けられてようやく介護保険サービスを使い、負担は減りましたが、サービスを嫌がるお母さんへの罪悪感はぬぐえませんでした。

松浦さんの在宅介護は、兄弟が3人もいるのに、最初から自分がみなきゃという覚悟からスタートしているところがすごいです。しかし、英文学をおさめ、東京・丸の内OLの走りであったモダンなお母さんに寄せる松浦さんの信頼や尊敬・憧れのような感情は、認知症の進行によって次々と裏切られていきます。

本書のクライマックスは、松浦さんがお母さんの死を願うほどに自身を失い、親子で顔の叩き合いをしてしまう場面です。憤慨するお母さんでしたが、次の場面では、息子に叩かれたことを忘れてしまっている。認知症へのやり場のない怒りと悲哀とがまじまじと伝わってくるシーンです。

松浦さんは、いまだにお母さんを介護施設へ入所させた自分を責めているかもしれませんが、その後の温かい交流を通して、在宅介護に奮闘した日々を笑えるようにもなったでしょうか。お母さんが認知症になる以前から同居を続け、お母さんのことをずっと守ってこられた松浦さんは本当に立派だったと思います。

(精神科医局 宮田量治)

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