ヒキコモリ漂流記
漫才コンビ・髭男爵のおひとりで、山梨放送のラジオパーソナリティもつとめていらっしゃる山田ルイ53世さんのご著作です。
山田少年は、勉強、スポーツ、そして人望にもめぐまれ、申し分のない小学校時代を過ごしました。そして、たった半年間の短い受験勉強で地元神戸の名門私立中学校へあっさり合格してしまう。まわりの子とは違う自分のことをいつしか神童と信じるようになっていた山田少年。本書では「神童感」と表現される自分らしさを損なうまいとして山田少年は人一倍努力もし、進学先の中学校でも同級生の尊敬を集めていました。ところが中2の夏のある出来事のあと、山田少年はまるで糸が切れたように登校できなくなり、以後、転落の人生がはじまりました。
山田少年の挫折体験は、ナイーブ過ぎて凡人には贅沢な悩みとしか思えないかもしれませんし、本書には読者を楽しませようという脚色もあるのかもしれません。しかし努力家で完璧だった山田少年にとって、あの夏の体験はあまりにも格好が悪く立ち直るには途方もない時間が必要だったのでしょう。山田少年にとって「余ってしまった」としか思えなかった長いひきこもりの日々は心底つらかっただろうと思います。
勉強でもスポーツでも、よい成績や結果を出すことは大変ですし、努力がむくわれないことは山とあります。山田少年のように自分を特別視していたり、周りからの期待が大きいと、失敗や不本意な結果への衝撃は大きいと思います。心がぽっきり折れてしまうこともある。そんなとき、人生には自分の失敗を笑いのネタにしてしまえるような、まったく別の道もあることを本書は思い出させてくれます。そういう別の道を自分らしく歩めるようになれる人間の強さにわたしは憧れます。
(精神科医局 宮田量治)