督促OL修行日記
仕事から受けるストレスから心と体を守る方法が書かれている本です。著者の榎本さんは、気弱で自己主張ができず、キャッチセールスにも簡単にひっかかるような性格。超氷河期の就職活動でやっと内定がもらえたクレジットカード会社では、社内でいちばん不人気の督促(とくそく)部門に配属されました。だまされたと思う暇もなくはじまった過酷な日々。半年で体重が10kg減り、心因性の体調不良や円形脱毛、ニキビや高熱に苦しみました。
督促部門とは、返済の遅れたお客様へ入金の依頼電話を掛ける部署のこと。いわゆる借金取りのような仕事なので、電話口から「いまからお前を殺しに行くからな」のような罵声を浴びることも日常。心身を壊して退職する同期が続出して、気がつけば女性で残ったのは榎本さんだけになっていました。榎本さんは、営業成績が最低だったので、会社を辞めるに辞められなかったのです。
榎本さんの電話の相手は、お金を借りていて、返そうという気持ちはあるけれど期日内に返せていない人達。私は、人見知りで気弱だった榎本さんがどうして督促のような難しい仕事が行えているのか興味をもって本書を読んだのですが、暴言で頭がまっしろになったときの対応、謝り方のコツ、ありがとうの使い方、無理な相手は担当を交代などの技術を使い、相手の気持ちを逆なでせず、返済の意欲を高められると自分の受けるダメージ(暴言を吐かれたり、謝らせられたりすることによる負担)が減り、債権回収率も上がったそうです。
本書にはお客さんの「怒鳴り声や罵声がご褒美」と言う先輩が登場しますが、この先輩は自分が言われた悪口をコレクションし「悪口辞典」を作りたいと思っているそうです。ありふれた悪口じゃなく、激烈・珍奇な悪口を言われたいなんて不思議なのですが、専門家というのは得てしてそういうものかもしれません。(わたしは、この先輩のユニークな発想を悪口の被害妄想で苦しんでいる統合失調症の方に応用できないか考えているところです。)督促部門では、追い込まれている社員さんへの応援や励まし(デスクに「頑張れ」のメモやお菓子を置いてくれたりする)があったりと、過酷さを乗り越えるには仲間の助けが大切ということにも気付かされます。合わないと思った仕事でしたが、続けることで気弱な榎本さんは何倍にも強くなったのです。
(精神科医局 宮田量治)