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ひきこもりの社会学

:井出草平
出版社
:世界思想社

 社会とのつながりを持たない「ひきこもり」は(1)男性が7〜8割と多く、(2)数十万単位で存在するのは日本だけで、(3)1970年代に現れた極めて現代的な現象だそうです。しかし、どうして日本にばかりひきこもり例が多いのでしょうか。
 著者の井出さんは、社会学の立場から6人の当事者へインタビューし、過去の研究の問題点などにも丁寧に説明を加えながら、ひきこもりの原因(精神障害が原因のひきこもりを除く)について詳しく分析しており、溜飲が下がる良書となっています。
 学校に真面目に出席し、真面目に授業を受け、真面目に宿題や課題をこなすなど、学校の価値感に人一倍「規範的」と言える生徒。そこに「学校を休む」「成績が良くない」「イジメ」など、本人が予期しなかった事態が生じると、学校に居ることが大変苦痛になり、ついには自分はダメな人間と感じたり、自己否定しかできなくなってしまう。こういうことは多かれ少なかれ誰しもが経験するものだと思いますが、当事者にとっては、「逃げ場」としての友達、校則違反すれすれのファッションや恋愛、意図的な怠学や進路変更などが行えず、苦痛を生じる学校には行かないという選択肢がいつのまにか行使され、本人の規範とはもっとも遠い場所にあったはずの不登校やひきこもりがはじまる。
 遊びもないほどに、本人が学校の規範に固くしばられるのは、「頑張ったんだから、それで十分」、そういう思いよりも、完璧主義や学業偏重など本人の家庭や学校にある日本的な価値観のせいとも思われます。本書は社会学の研究書で、ひきこもりへの具体的な対処方法については記載されていませんが、わたしは支援する側の立場から本書を読み、ひきこもり当事者の方に「なぜ学校へ行かれないのか」という批判的な言葉ではなくてとにかく優しい言葉をかけてあげたくなりました。

(精神科医局 宮田量治)

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