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思ってたウツとちがう!「新型うつ」うちの夫の場合

:池田暁子
出版社
:秋田書店

 「新型うつ病」の体験を漫画家の妻の視点から描いたコミックエッセイです。新型うつは「非定型うつ病」とも言われますが、本人のパーソナリティと関連して起こるうつ病的な反応です。うつ病と違う目立った特徴としては、他罰的で、仕事に行けないときでもプライベートライフ(趣味や休日の活動)なら普段通りにできたりと、状況によって気分が良くなったり悪くなったりすることです。さぼりとか仮病と見られることもあります。池田さんのご主人もまさしくそんな一人。職場の仕事や人間関係で苦労が続いているうち、よく眠れなくなり、「死にたい」を連発するようになりました。精神科にかかると、「抑うつ状態」と診断されて休職を勧められましたが、休職しても家で寝込んでしまうようなことはなく、夜遅くまでゲームに興じたり、旅行でもするかと思えば、入念に情報を集め、ホテルやレンタカーの予約もてきぱきこなし、旅先の北海道各地から奥さんに宛てて写メを送信しました。ところが、帰宅して仕事のしの字でも聞こうものならたちまち固まってしまい具合が悪くなる。自分の不調を八つ当たりするかのように奥さんの仕事に口出しし、ダメ出しや説教を重ねました。妻の池田さんはたまりかねて家出。離婚も考えるようになります。

 このコミックでは、「結婚も人生も失敗だった」「目の前から消えてくれないか」とすら思ったことなど、新型うつの療養生活が2年にも及ぶ池田さんのご主人に対する気持ちが容赦なく描き出されています。うつ病と診断された夫への幻滅や怒りをここまで露骨に表現することには勇気が必要だったと思います。

 ご主人は悩みに悩んだ末、(戻っても同じ結果になるだろうと考えて)休職中の会社に辞表を提出し、これが転機となって病状は好転に向かい始めました。ご主人の繊細さや心細さにはじめて共感できたことで、池田さんは夫の回復をあせらずに待とうと思えるようになりました。薬物療法で順調に回復していくことの多いうつ病と違い、ご主人の新型うつの療養生活は今後も忍耐を要する日々であることに変わりがないかもしれませんが、池田さんは本書を描くことを通して、ご主人との付き合い方や励まし方にも磨きをかけていったようです。そのようなご家族の経験や工夫をうかがえる本書は貴重だと思います。

(精神科医局 宮田量治)

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