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人間仮免中

:卯月妙子
出版社
:イースト・プレス

 統合失調症の療養を続けていた漫画家の卯月さんは、自分からプロポーズして、25歳年上の会社員男性・ボビーさんとの生活をスタートしました。本書は、その生活を回想した味のあるコミックです。

 20歳で結婚と出産。しかし、間もなく夫の会社が倒産してしまい、借金返済のためのホステス業、AV女優などの過酷なキャリアを持つに至った卯月さんですが、かつての仲間から舞台に誘われると、過鎮静の副作用があったら舞台に立てないと思い、担当医の助言を無視して薬を半分に減らしてしまいました。すると、卯月さんは、なんの根拠もなく、カリスマ占い師になって大金を稼ぐという万能感に酔いしれ、嫉妬妄想で攻撃的となり、混乱した頭の中で、バンジージャンプで運試ししようと思いつくと、ためらわず歩道橋からダイビングしてしまいました。そのときのボビーさんは、借金の保証人になっていた知人の事業の失敗で預金の大半を失ってしまい、失意のどん底から卯月さんに別れ話を切り出していて、卯月さんの病状悪化には対応できなかったのです。

 事故によって顔面粉砕骨折の重症を負った卯月さん。搬送された病院では、死の宣告も受けましたが、家族に励まされて、苦しい治療を続けました。変形した卯月さんの顔を見ても、一緒に泣き、励まし、支え、愛しつづけたボビーさんの深い人間性には本当にこころを打たれます。そして、病気やけがの不遇を恨んだりしない卯月さんの明るさや力強さにも心底脱帽します。

 本書は、統合失調症の幻聴や妄想による混乱状態が見事に描かれていて、その点でも興味深い本です。病室の天井照明が自分の頭へ落ちて来る鉄球に見えたり、献身的に治療にあたる医師や看護師のことを自分を恥ずかしめて殺そうとする集団と感じたり。卯月さんはその集団から殺されまいとして、安静を指示されてもベッド上で体を動かし続けていたそうです。

 コミックからうかがわれる卯月さんは、過激だけれど繊細な方。ストレスがかかると屯用薬をつかい過ぎたり、飲酒して暴れたりと、危なっかしい行動が見られます。どうぞ、ボビーさんやご家族にはくれぐれも心配をかけないように。卯月さんとボビーさんのその後については、続編もありますので、読んでみてください。

(精神科医局 宮田量治)

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