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一度も愛してくれなかった母へ、一度も愛せなかった男たちへ

:遠野なぎこ
出版社
:ブックマン社

 実母から長きにわたって心理的な虐待を受けてきた女優・遠野なぎこさんの赤裸々な告白本です。表紙の帯に自伝的小説とありますので、内容は脚色されたものとして読むべきだと思いますが、摂食障害、過量服薬、性的逸脱を繰り返す遠野さんの自虐的な日々は、控え目に脚色されているのではないかとすら思える激しい内容のものです。

 遠野さんの母は、いまどきの言葉でいえば、典型的な毒母(toxic mother)。自分の評判や恋愛のためには娘の利用も厭わず、子供の性格や容姿をあからさまにけなし、格下げすることが日常だったようです。3人兄弟の中でも、遠野さんはお母さんから特に虐げられていたようですが、弟妹の通う児童劇団の勧めで子役デビュー。子役で頑張ればお母さんが認めてくれると思って必死に頑張ったそうです。しかし、母から認めてもらいたいという娘の強烈な思いは、その後もかなうことはありませんでした。NHKの朝ドラのヒロインが決まったときですらも、お母さんは遠野さんに何の感動も示さなかったそうです。

 遠野さんは、いつの間にか、恋多き「七股女優」などと揶揄されるようになりますが、実際のところは、ひとの優しさや愛情が信じられない孤独な女性でした。あるバラエティ番組で、それまでの母との関係を独白すると、同じような経験をしたたくさんの視聴者から反響が寄せられました。そして、この番組が転機となって、遠野さんは「母を捨てて、もう一度、生き直す」ことを決心したのです。この本は、この決心があるからこそ成立したものと言えるでしょう。

 いちばん愛してもらいたかった人を捨てることは、思うほど簡単ではないと思います。わたしは、遠野さんが葛藤の先に自分を照らす確かな光をたくさん見つけられたらいいなと切に願います。

(精神科医局 宮田量治)

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