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統合失調症とわたしとクスリ かしこい病者になるために

:川村 実、佐野卓志、中内 堅、名月かな
出版社
:ぶどう社

 本書は2005年に出版された精神科のクスリに対する統合失調症の「論客」4人による精神科治療薬(クスリ)の体験集。統合失調症の方の言説のイメージが完全に砕かれるような論理的で質の高い書物です。統合失調症の発病前後に、小説家(川村さん)、当事者活動やネット相談(佐野さん)、アートデザイナー(中内さん)、大学院卒(名月さん)などのキャリアを持つ4人は、10〜20年の経過の中でさまざまな経験をされた方ばかりです。

 本書出版の立役者の名月さんは、医療の専門分野であるクスリについて、素人である当事者が語ることには戸惑いもあるだろうが、クスリを飲むとどんな感じがするかは(医者や薬剤師ではなく)当事者にしか語れないと考えました。長い間クスリを飲んできた自分たちの体験を積極的に発言し、他のひとにも共有してもらいたいという思いから本書を企画したそうです。

 おおむね3部構成の本書では、序章に川村さんの福祉学科学生に向けた講義内容が、次いで4人の治療経験が掲載され、名月さんがエピローグをまとめています。まずもって冒頭の川村さんの講義が刺激的です。精神障害者は(ほかの障害者同様、症状がないときは)病人ではない。しかし、病人であったり、いつ病人に戻るか分からない状態を卒業できない現実がある。精神保健スタッフは、精神障害者が近くにいることにはすぐに慣れるが、(そばにいるだけで)精神障害を理解したことにはならない。これらはわたしが本書で最初にノックアウトされたフレーズです。4人の体験集では、発病に至る経緯や生々しい幻覚妄想体験、クスリを飲んでよくなったことと困ったこと、クスリの飲み方の工夫などが描かれています。クスリをやめて再発・奥さんの愛に支えられての回復(佐野さん)、仲間との情報交換から新薬にチャレンジ(中内さん)、合わない医師を変えたりセカンドオピニオンを持つこと(川村さん)、共同意思決定(Shared Decision Making: SDM)の先駆けのような医師との付き合い方(名月さん)など、それぞれの切実な体験をうかがうと、自分の病気をよくするためには困っていることを堂々と主張してもよいし、医師やクスリに遠慮無用ということがよく分かります。4人の方の経験を通して、医療(医者やクスリ)との「かしこい」付き合い方の参考にして欲しいです。

(精神科医局 宮田量治)

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