1950年代に始まった今日の造血幹細胞移植は、これまで移植前に大量の抗がん剤投与や放射線全身照射を 行う前処置をより強力にすることで原病の再発を抑えようと努力してきました。しかし、前処置の強化により移植後早期の死亡例が増加してしまい、前処置の強 化だけでは移植治療の成績は改善できないことがわかってきました。また、これまでは強力な前処置に耐えられるような強靭な体力の患者さんだけが造血幹細胞 移植を受けることができ、体力のない高齢者や合併症を持つ患者さんは移植治療を受けることはできませんでした。
しかし、1990年代後半になり海外において再発予防には前処置の強化よりもGVL効果(前述)のほうが重要ではないかといわれるようになり前処置を弱めた移植が行われるようになりました。この前処置の抗がん剤や放射線量を減量した移植法をミニ移植といいます。
ミニ移植が始まってまだ期間が比較的短いため長期的な有効性については不明な点もありますが、移植時の早 期死亡率を低下させ、それまで不可能であった高齢者やさまざまな合併症を持つ患者さんにおいても造血幹細胞移植が可能となっています。しかし、これまでの 移植法と比べ再発率の上昇やGVHDは同等に認められたりというデメリットも報告されています。
移植後初期のGVHD、感染症などの合併症を克服して退院までこぎつけると、その後の日常生活のことが心 配になってきます。外来ではもとの病気の再発の有無や移植後の合併症についてチェックしていきます。移植後、かかりやすい感染症としては帯状疱疹、出血性 膀胱炎、真菌(カビ)やウイルスによる間質性肺炎があります。また慢性GVHDによる目の充血や、口内炎、皮膚炎、肝障害、肺障害が起こってくることもあ ります。移植から年数がたつと徐々に体も健康時の状態に近づいていきます。
移植後は不妊症になるのが一般的です。当院では若い男性の患者さんの場合は移植前の精子保存をお勧めして います。女性の場合は卵子保存はできませんので、放射線を卵巣になるべく当てないようにするなど可能な限りの不妊対策を講じて移植を行っています。長期的 には二次発がんといって移植によってがんや白血病になる場合もあります。
移植後は血液型は徐々にドナーさんの血液型に変化します。たとえば患者さんがA型でもドナーさんがB型の 場合、患者さんの血液型は少しずつB型に変化し、半年から1年くらいで完全にB型になってしまいます。そのため移植後の輸血はもとの血液型と違う血液製剤 を輸血する場合があります。
また、異性間で移植が行われた場合(たとえば女性から男性へ、または男性から女性への移植)、移植後血液細胞の染色体は女性患者では男性型に、男性患者では女性型に変化しますが生活上何ら問題はありません。
費用は全部自己負担では1000万円から2000万円程度必要ですが、高額医療費制度、高額医療費貸付制度により最終的な自己負担額は他の疾患での入院費用とほとんど変わりません。詳しい内容については当院患者支援センター、または主治医、病棟師長にご相談ください。