外科は主に手術による治療を行う科です。 具体的には消化器(食道、胃、大腸、肝臓、胆道、膵臓)、乳腺、甲状腺、またはヘルニアなどの体表の病気が主な対象となります。 各専門医が悪性疾患、主にがんを中心に治療しており、全身麻酔下に年間約1000例の手術をしています。
最近、体に負担の少ない手術として、鏡視下手術(腹腔鏡や胸腔鏡を利用して、小さな傷で体に負担が少ない手術のこと)が普及しております。 胆嚢結石の治療から始まり、今では早期の胃がん、大腸がんを中心にいろいろな病気で応用されています。 現在では最先端のロボット支援下腹腔鏡手術も胃癌、食道癌、結腸癌、直腸癌の分野で増加しています。
他の領域の専門医(心臓外科医、形成外科医など)との協力体制も万全ですので、 他の臓器をいっしょに切除しなければならない、拡大手術でも安全に行えます。
詳しい内容につきましては、 (「診療への取り組み」の先頭へ)「診療への取り組み」 からご覧ください。
表1 H21~R5における手術件数
年度 | H21 | H22 | H23 | H24 | H25 | H26 | H27 | H28 | H29 | H30 | R1 |
R2 |
R3 | R4 | R5 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
甲状腺 | 4 | 3 | 3 | 3 | 0 | 0 | 7 | 7 | 5 | 7 | 3 | 1 | 1 | 0 | 0 |
乳がん | 122 | 160 | 151 | 153 | 170 | 160 | 142 | 189 | 220 | 200 | 198 |
220 |
211 | 219 | 235 |
食道がん | 15 | 13 | 13 | 9 | 9 | 10 | 9 | 18 | 14 | 17 | 12 |
14 |
6 | 16 | 11 |
胃がん | 111 | 97 | 94 | 84 | 81 | 61 | 76 | 95 | 83 | 78 | 100 |
72 |
62 | 64 | 64 |
胃潰瘍 その他 | 7 | 6 | 8 | 3 | 7 | 0 | 9 | 11 | 14 | 7 | 8 |
6 |
1 | 19 | 27 |
大腸がん | 124 | 134 | 154 | 151 | 146 | 148 | 122 | 147 | 183 | 160 | 161 |
167 |
189 | 190 | 148 |
腹膜炎・虫垂炎など | 38 | 43 | 39 | 35 | 62 | 51 | 48 | 131 | 93 | 102 | 96 |
70 |
76 | 71 | 76 |
肝臓がん | 26 | 21 | 15 | 15 | 15 | 11 | 17 | 16 | 31 | 47 | 50 |
52 |
55 | 56 | 48 |
胆嚢・胆管がん | 21 | 13 | 15 | 13 | 11 | 12 | 11 | 8 | 13 | 9 | 12 |
15 |
3 | 13 | 13 |
膵臓がん | 12 | 12 | 10 | 6 | 11 | 8 | 13 | 15 | 14 | 23 | 26 |
19 |
33 | 30 | 30 |
胆石症 | 59 | 63 | 41 | 52 | 54 | 61 | 65 | 86 | 79 | 81 | 74 |
79 |
99 | 90 | 107 |
ヘルニア | 62 | 61 | 71 | 74 | 82 | 72 | 108 | 132 | 108 | 125 | 136 |
119 |
114 | 128 | 168 |
その他 | 88 | 84 | 54 | 87 | 91 | 100 | 93 | 41 | 65 | 74 | 79 |
121 |
113 | 114 | 102 |
年間手術数 | 689 | 710 | 668 | 685 | 739 | 694 | 720 | 896 | 922 | 930 | 955 |
955 |
963 | 1010 | 1024 |
それぞれの専門ごとに、以下からご覧いただけます。
肝臓:大きく2通りのがんが対象です。肝臓から発生するがん、すなわち肝細胞がん・肝内胆管細胞がんと、 他の内臓にできたがんから転移して肝臓で発育した転移性肝がんです。肝臓がんは依然として、がんの種類別死亡数の上位を占めています。当院では、小さなも のでは皮膚を通して腫瘍を焼いてしまうラジオ波療法を、消化器内科で行っておりますが、大きくなったもの、太い血管などに近いもの、破裂の危険があるもの などは、外科的切除が安全です。また、転移性肝がんでは完全に焼ききるのは難しいことがあります。内科と外科でよく相談して、もっとも効果の高い方法を選 ぶようにいたします。
なお、肝細胞がんでは多くの方がB型、ないしはC型の肝炎をベースにもたれておりますので、その経過観察中に見つけられることが多いです。しかし、近年ウ イルス感染をベースにもたない肝がん(非ウイルス性肝がん)の割合が増えています(NASH由来の肝がんなど)。非ウイルス性肝がんは発見が遅れることが 多く、見つかった場合外科的切除の対象となることが多い傾向にあります。また、転移性肝がんの場合は、もとの大腸などにできたがんが比較的進行しているこ とが多く、その経過観察中に見つけられることがほとんどです。
安全に肝臓の切除を行えるよう、術前に3D-CTで腫瘍と肝臓の中の太い血管との位置関係がわかるように立体画像を作って、 どのように切除していくかシミュレーションしています。 また、どのくらい切除しても安全かは、年齢、肝臓の機能がどのていど良好か、 肝臓の切除量によりますので、あらかじめ精密に計算して行うようにしています。
また、体にやさしい手術である腹腔鏡下の肝切除を積極的におこなっております。一部の報道から、腹腔鏡下の肝切除は怖い手術である、というような印象をもたれるかもしれませんが、適切な症例に、適切な手術法を選択することにより、安全第一を心がけています。
胆道:発生する場所によって、胆管がん・胆嚢がん・乳頭部がん(胆管と膵管が十二指腸に開くところ)に分類されます。 大きくいいますと、肝臓に近いところにできた場合は肝臓を一部、いっしょに取る手術、十二指腸に近いところでは膵頭十二指腸切除といって、 胆管、胆嚢、十二指腸、膵臓の一部を切除する方法となります。 症状としては、黄疸で発見されることが多いです。
膵臓:十二指腸に近い膵頭部にできたがんと、脾臓に近い尾部にできたがんとでは治療法が違います。 前者は胆道で述べたのと同じ、膵頭十二指腸切除を行います。 後者は膵臓の体部と尾部といって、 十二指腸の反対の部分と脾臓とを取りさる、膵体尾部切除を行います。
胆道がんも膵がんも、ジェムザールという抗がん剤を中心とした薬物治療を加えることがほとんどです。
いずれの疾患でも、重要な臓器が近接している場所なので、比較的大きな手術となってしまうのですが安全に行うように最大限の努力をしてまいります。
肝臓:肝臓がんとの区別が難しいときに、血管腫や肝臓の腺腫といった良性の腫瘍でも切除の対象となることがあります。
胆道:圧倒的に多いのは、胆石です。 発生した場所によって、胆嚢結石、胆管結石、肝内結石に分類されます。 90%以上は胆嚢結石で、肝内結石は1%以下です。 しかし、みぞおちの右側がキューッと痛む、重苦しい、右の背中がはってくる、胃痙攣かしら?といった症状があれば、胆石が原因のひとつです。 悪化すると、ひどい胆嚢炎や壊死などおこして、最悪は緊急手術の対象となりえますので、検査をしておいたほうが安全です。 治療は、腹腔鏡下の胆嚢摘出術です。 ただし、ひどい胆嚢炎、胃や腹膜炎の手術をされている場合、高度な肥満のかたでは難しいことがあります。 術後3-5日での退院を目標にしています。 また、単孔式といってさらに傷を小さくする手術も開発されてきており、炎症の少なそうなかたが対象となります。
胆嚢結石は、70歳代では10%以上のかたが持たれており、ざっといって半数はSilent stone(沈黙の石)といって、無症状のまま経過されます。 治療しなくても大丈夫なことが多いです。
胆管結石は、原則的に見つかれば、専門用語で切石といいますが、摘出です。
胆汁は肝臓で1日500-700cc作られ、胆嚢で濃縮されます。 脂肪分が十二指腸にきますとホルモンが分泌されて、 胆嚢が縮んで十二指腸に排出され消化します。 もし胆管に結石がはまり込んでしまうと、この胆汁が血液に逆流して黄疸となります。 さらに、細菌は胆汁内で増えやすく、いっしょに逆流すると敗血症になります。 非常に危険な病態となるわけです。
摘出は、まず内視鏡的に行うようにします。 胆管の十二指腸への開口部、乳頭部からカテーテルを入れて特殊な方法で取りだすようにします。 消化器内科で行いますが、当院には手技に長けたドクターがおります。 しかし、胃の切除後や石が大きいなど難しい場合には、手術し胆管を開いて切石します。
基本的には、良性の疾患ですので体に負担の少ない治療を選択するようにいたします。
胆石以外では、膵胆管合流異常や胆管拡張症といった先天奇形の場合も、癌化の危険性がありますので治療の対象となります。
膵臓:IPMTとよばれる、いわゆる膵がんの前駆的病変としてとらえていい、内部に液体が貯まった、のうほう性の腫瘍が見つかるようになりました。 あまり症状は出さず、CtやMRIなどで偶然に見つかることが多い疾患です。 全例ではありませんが、直径が3cm以上のもの、液体の中に細胞の集団がはっきりと見えるものなどは切除の対象となります。
食道から胃・十二指腸を中心とした上部消化管の良性・悪性疾患の外科治療を行っています。 現在では高齢で合併症をもつ方が、手術されることが多いため、術前診断、術中病理診断、治療ガイドラインを参考に過不足のない外科治療を心がけています。
悪性腫瘍に対しては外科治療のみならす放射線・化学療法を取り入れた集学的治療に取り組んでいます。手術のご負担を軽減することや、手技治療の精度を向上するために、食道癌、胃癌に対する手術には、約8~9割の症例で胸・腹腔鏡手術を導入しています。
当科は胃癌に対する日本内視鏡外科学会技術認定医2名を擁している山梨県内では唯一の施設であり、適切な鏡視下手術(ロボット支援下・腹腔鏡・胸腔鏡手術)を実施しています。
また進行、再発されたがん患者さまには、化学療法をはじめとして、がんゲノムパネル検査も実施し積極的に治療しています。
悪性疾患に対する鏡視下手術に対する取り組みとして、医療安全の確保ならびに根治性が損なわれないことに重点をおいています。 今後もこのような患者さまの身体への負担の軽減を目的とした手術が増加してくると思いますので、 当科でもこれまで以上に多くの患者さまに導入できるように努力していきたいと考えています。
悪性疾患である胃癌は、治療体系が標準化されてきています。当科では、幽門側胃切除、胃全摘術といった開腹での標準的手術の他、 術後後遺症を軽減し機能を温存する目的で縮小手術を積極的に行っています。また進行した状態で発見された場合には、術前治療や術後治療を行っており、難治性がんとなった方に対するゲノム診療では、パネル検査を積極的に導入し治療に役立てています。
令和2年の手術件数は、胃外科分野ではコロナ禍の影響もあり減少しましたが、胃癌、食道胃接合部癌に対する腹腔鏡や胸腔鏡を併用する手術(体腔鏡を使用した手術)が増加してきています。 グラフに 当科における胃がん術式別年次推移を示しましたが、80%以上の患者さまに対して低侵襲を目指した腹腔鏡下手術を行っております。 手術時間は多少長くかかりますが、術後の痛みの軽減や回復に要する日数は短縮されています。
令和2年度は、さらに合併症減少を目的としたロボット支援下手術の比率が高くなってきています(約30%→60%)。
胸部食道癌に対する低侵襲手術を目指すためには、胸部操作における低侵襲化が重要です。胸部食道癌に対する胸部操作において低侵襲である胸腔鏡下食道亜全摘術(VATS–E)やロボット支援下食道亜全摘手術(RAMIE)の術式比率は2018年に9割になってきています。さらに2019年には、合併症の減少や予後を改善するべく左反回神経周囲リンパ節郭清に優位性のあるロボット支援下食道亜全摘手術(RAMIE)の導入をすすめています。
大腸癌の治療(手術、化学療法、外来フォロー)、炎症性腸疾患や家族性大腸腺腫症などの特殊な手術、 大腸穿孔を初めとする緊急手術を外科スタッフ、 専修医、研修医、病棟外来看護師等とともに日常業務として行っています。 また近年、合併症を持つ患者さんが増加していることや他臓器浸潤・転移の治療のため他科との連携が重要となってきています。 こうしたことから、呼吸器内科、循環器内科、消化器内科、腎臓内科、糖尿病内分泌内科、リウマチ・膠原病内科、血液内科、整形外科、 脳神経外科、泌尿器科、麻酔科、 放射線科、緩和ケア科、婦人科等の先生方には、日頃大変お世話になっております。 画一的な治療ではなく、個々の患者さんに合った治療を考え実践し、更に専門性を高めて行きたいと考えております
2011年~2020年までの大腸外科関連の手術件数を表に示します。
また、大腸癌手術症例の5年生存率も図に示します。
ここ数年は大腸癌手術症例は年間150例前後で推移しています。2020年の大腸癌手術症例は147例で、定型的な悪性疾患手術は133例(結腸切除術94例、前方切除術44例、直腸切断術11例、内肛門括約筋切除術1例)でした。 また、炎症性腸疾患手術は4例で、家族性大腸腺腫症手術は0例でした。当科では2016年より腹腔鏡下手術を本格的に導入し、その数は年々増加しています。2020年には大腸手術の約90%を腹腔鏡下手術で行いました。
CR | AR | APR | ISR |
癌/計 | IBD | FAP | 腹腔鏡 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
2011年 | 96 | 35 | 10 | 0 |
141/167 | 5 | 0 | 1 |
2012年 | 106 | 29 | 13 | 0 |
148/170 | 4 | 0 | 14 |
2013年 | 100 | 40 | 8 | 0 |
148/154 | 2 | 0 | 31 |
2014年 | 100 | 29 | 5 | 0 |
134/152 | 3 | 1 | 22 |
2015年 | 86 | 32 | 5 | 0 |
123/130 | 1 | 0 | 18 |
2016年 | 93 | 31 | 5 | 0 |
125/129 | 2 | 0 | 53 |
2017年 | 121 | 39 | 2 | 1 |
162/176 | 7 | 0 | 108 |
2018年 |
94 |
39 |
7 |
5 |
159/169 |
5 |
0 |
115 |
2019年 |
86 |
36 |
11 |
1 |
144/157 |
0 |
0 |
132 |
2020年 |
94 |
44 |
6 |
3 |
133/147 |
4 |
0 |
135 |
CR:結腸切除 AR:前方切除 APR:直腸切断術 IBD:炎症性腸疾患 FAP:家族性大腸ポリポーシス LAP:腹腔鏡下結腸切除 ISR:内肛門括約筋切除術
大腸癌肝転移にて2005年~2016年までに根治的肝切除術を行った患者は56例でした(図を参照。観察期間は年数)。 現在までの5年生生存率50%でした。
乳がんの検診、診断、手術、化学療法と乳がんに関係する診療をすべて担当する形をとり、 やりがいをもってできる反面、 外来患者数が増加しあわただしい診療になっていることが反省させられます。 中込、井上、中田で担当し外来枠を可能なかぎり拡張しました。 忙しい外来のなかにも余裕をもって診療できるような体制をめざしています。
診断におけるマンモトーム生検、RI法によるセンチネルリンパ節生検など 最新の技術をすみやかに導入でき、病院全体としても乳腺診療に力を注いでくれています。
手術においては、形成外科との協力で乳房切除後の乳房再建術も可能です。 平成27年に人工乳房による乳房再建術が保険適応となり、乳房再建も負担なくできるようになっております。 当院におきましても乳房再建術が増えています。 当院の最大の特色は乳房温存手術後の乳房形成に工夫を凝らしていることですが、当院形成外科 小林公一医師 考案による 「側胸部真皮脂肪弁による乳房形成術」の導入により、 広範囲に乳房を切除した後にも侵襲の少ない方法で形の良い乳房を残すことができています。 これにより乳房温存率も向上しました。 乳房再建術と乳房形成術を駆使して 根治性と整容製のバランスのとれた治療を行っております。
乳がんの生存率にもっとも関係するのは手術前後の薬物療法であり、その進歩は著しいものがあります。 科学的根拠を指標に新しい薬剤、治療法を的確に導入することは乳がん診療の重要な柱です。 チーム医療の構築のなかで薬物療法の充実に力を注いでいます。
当院における乳がん手術術式の変遷は、こちらをご覧ください。
(側胸部真皮脂肪弁による乳房形成術の紹介)
[参考]側胸部真皮脂肪弁による乳房形成術
外科 中込 博 古屋一茂 日向道子 小林恵子 大森征人
形成外科 小林公一
乳癌の臨床 24: 363-367、2009
当院における乳がん症例と生存率は、こちらをご覧ください。