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無痛分娩について

Q&A

Q1:無痛分娩の方法について教えてください。

 無痛分娩とは硬膜外麻酔を用いることで痛みを緩和して分娩していただくことです。脊椎の中の硬膜外腔というスペースに硬膜外カテーテルという細い管を挿入し、そこから局所麻酔薬を注入します。他の麻酔方法と比較して、胎児への麻酔薬の移行は最小限に抑えられます。帝王切開や術後鎮痛に使用される一般的な麻酔方法です。陣痛の痛みは、痛みに対する恐怖や不安によっても増強されます。強い痛みを自覚することでストレスホルモンが放出されて酸素消費量は増加します。末梢血管抵抗の増加から血圧は上昇し、心拍出量も増加することから心臓への負荷が高まります。硬膜外麻酔による疼痛緩和によって、これらの反応が抑制され、安定した循環動態を維持することが可能となります。

 

図1 子宮収縮による痛みは主に胸髄10番〜腰髄1番(T10〜L1)、会陰部の痛みは主に仙髄2〜4番(S2〜S4)の神経を介して脳へ伝わります。痛みの感じ方は不安や恐怖などにも影響され、強い痛みはストレスホルモンの分泌、酸素消費量・血圧・心拍出量・血管抵抗の増加などを引き起こします。痛みを和らげることにより身体への負担の軽減が期待されます。

図2 硬膜外麻酔の模式図。背中から硬膜外腔に針を進め、細いカテーテルを留置して局所麻酔薬を投与します。薬は硬膜の外側から作用し、分娩時の痛みを和らげます。

Q2:無痛分娩のスケジュールについて教えてください。

 当院の無痛分娩は全員、計画分娩とさせて頂いております。計画分娩とは日程を決めて入院していただき、分娩誘発(陣痛促進剤を使用して分娩に至るよう管理すること)を行います。子宮口が十分に開いていないと分娩はスムーズに進行しません。子宮口の開大時期には個人差があるため、正期産(妊娠37週以降42週未満)の時期になったら診察所見を参考にして、個別に入院日を決めます。
 当院の無痛分娩は平日の日中のみ対応可能です。平日であっても午後5時以降は原則として対応できません。また休日・夜間も対応できません。計画分娩を予定していた日よりも前に陣痛や破水が起きてしまった場合も無痛分娩はできません。

 無痛分娩を希望される妊婦さんとご主人には無痛分娩説明会を受講していただきます(月に1回開催、日程はホームページに掲載します)。無痛分娩を希望する方、説明を聞いて考えたいという方は産科外来の看護スタッフにお声がけください。

Q3:実際の無痛分娩の流れについて教えてください。

 入院日に分娩誘発、硬膜外麻酔および帝王切開に関する説明を聞いていただき、分娩誘発の前日、もしくは当日に麻酔科医師に硬膜外カテーテルを挿入してもらいます。必要に応じて頸管拡張という子宮口を開大させる処置をします。翌日の朝から陣痛促進剤を開始します。陣痛の様子を見ながら硬膜外カテーテルから麻酔薬を投与して鎮痛していきます。
 誘発当日に出産に至らない場合には、夕方に分娩誘発を一旦中止して翌日の朝から再度、分娩誘発を再開します。もしも夜間に自然陣発した場合には、翌日の朝までは無痛分娩は行えませんので、通常の分娩管理となります。

Q4:無痛分娩開始のタイミングについて教えてください。

 陣痛がきてから子宮口が全開大(10cm)するまでを分娩第Ⅰ期といいますが、子宮口が5cm位まで開き始め、一番痛い痛み(10)の半分くらい(5)まで痛くなった時に麻酔を開始するのが理想的です。しかし痛みの感じ方は妊婦さんそれぞれであり、子宮口が2-3cmくらいの開き具合でもすごく痛いと感じる妊婦さんもいますし、子宮口が8cm位でもまだ我慢できるという妊婦さんもいます。そのため妊婦さんの痛みの感じ方や、子宮口の開きをみながら、妊婦さんと相談して麻酔開始のタイミングを決めております。

Q5:痛みはどうやってコントロールするのですか?

 我慢しにくい痛みが出現してから局所麻酔薬を硬膜外腔に投与していきます。妊婦さんの血圧や呼吸、赤ちゃんの元気さを見ながら数回に分けてカテーテルに麻酔薬を入れていきます。妊婦さんにより様々ですが、投与開始から約20~30分程度で効果が感じられるようになってきます。その後PCA(Patient controlled analgesia)ポンプという装置を用いて、ごく少量の麻酔薬が持続的に投与されて痛みを常に減らすようにしていきます。赤ちゃんの頭が徐々に降りてくる分娩進行に伴って、痛みの場所や性質が変化した場合は、PCAポンプの装置を用いることにより速やかに麻酔薬の追加を行うことができ、我慢できないような痛みを感じる時間を極力短くなるよう工夫しております。

Q6:無痛分娩にすると必ず促進剤が必要ですか?

 無痛分娩は計画分娩で行います。計画分娩とは決められた日に分娩誘発を行い人工的に出産に至るよう誘導する方法です。分娩誘発とは自然陣痛の代わりに子宮収縮剤(陣痛促進剤)を点滴で投与して人工的に陣痛を起こして分娩に至るように誘導する医療処置です。陣痛促進剤というと急に痛くなりそうで恐いなどネガティブなイメージを持たれる妊婦さんも少なくありません。薬剤が相対的に過量になる場合には、過強陣痛(陣痛間隔がなくなり子宮が強く長く収縮する状態)や胎児心音異常(赤ちゃんの心拍数がゆっくりになる)を生じる危険性がありますので、このようなことがないように、母体にも胎児にも安全に使用できるように、陣痛促進剤の反応(子宮収縮の様子)と、それに伴う胎児の心拍数の変動に注意しながら、少量ずつ促進剤を増量していきます。分娩管理中は赤ちゃんの持続的な胎児心拍モニターを行いない、常に状態を監視しながら慎重に進めていきます。

Q7:無痛分娩で上手くいきめなくなりますか?

 痛みが十分にコントロールされていても、子宮収縮を感じながら自分で上手にいきめることが理想です。しかし麻酔が効きすぎて子宮収縮が分からなかったり、いきむタイミングがわからなくなったりする妊婦さんもいます。その場合は一時的に麻酔薬の量を減らしたり、麻酔薬投与を中断したりして麻酔が効きすぎないよう調整し、スムーズは分娩になるよう誘導します。いきむタイミングが分からない時は医師や助産師がタイミングをアドバイスしますので心配いりません。

Q8:赤ちゃんに与える影響について教えてください。

硬膜外麻酔による無痛分娩は、他の麻酔方法に比較して分娩中でも安全に使用することができます。適切な管理下では、新生児の予後に有意な差はなく、むしろ胎盤血流が安定するメリットも報告されています。現在主流の低濃度・間欠投与法に関する国内の前向き観察研究では、硬膜外腔に投与した局所麻酔薬と麻薬による胎児の全身毒性は認められませんでした。麻酔によりお母さんの血圧が急激に下がった場合は、一時的に赤ちゃんにも影響がありますが、お母さんの血圧を頻回に測定し、血圧低下の場合もすぐに対応できるよう準備して分娩管理を行っております。

(Ijuin A, et al. Umbilical analgesic concentrations after labour analgesia with programmed intermittent epidural bolus: a prospective observational study. Can J Anesth. 2025)

Q9:無痛分娩のリスクについて教えてください。

比較的頻度の高い副作用

母体低血圧、悪心・嘔吐、掻痒感、発熱、尿閉、下肢のしびれ・運動障害、穿刺部痛、硬膜穿刺後頭痛があります。これらの症状が発生した時には母体体位変換、輸液、昇圧薬投与、酸素投与、薬剤調整、導尿などの必要な処置を行い対応します。

稀に起こる副作用

高位/全脊髄クモ膜下麻酔、局所麻酔薬中毒、呼吸抑制、けいれん、意識障害、心停止、硬膜外血腫、硬膜外膿瘍、神経障害、アナフィラキシー等があります。これらに備え、当院では麻酔科・救命救急科と連携し、急変時には速やかに対応できるような体制を整えて管理を行います。

 分娩自体に与える影響としては陣痛間隔が延長して分娩所用時間が長くなることが報告されております。分娩第Ⅱ期(子宮口が全開大してから分娩まで)が著しく長くなった場合は、分娩後の排尿障害の原因にもなります。このため自然分娩と比較して、鉗子分娩や吸引分娩などが必要になることが、特に初産婦さんでは多くなります。帝王切開のリスクが上昇することはないとされます。

Q10:無痛分娩中の制限について教えてください。

食事について 
 無痛分娩に限らず、分娩進行中はどの方でも母体合併症出現や赤ちゃんの具合が急に悪くなり緊急で帝王切開が必要になる場合があります。もし食事をされていると帝王切開施行時の麻酔危険度が高くなるため十分な注意が必要です。基本的には食事制限はしていませんが、分娩進行中の赤ちゃんやお母さんの状態により帝王切開になる可能性が高くなったと判断した場合は、食事を制限することがあります。

排尿について
 麻酔薬投与中は下半身の動きが麻痺しており、立ったり歩いたりが思うようにできないことがあります。トイレへの歩行により転倒のリスクがある場合は、助産師により尿道にカテーテルを入れて排尿をして頂くことがあります。

Q11:無痛分娩を選択するメリットはありますか?
  1. 分娩時の強い疼痛を軽減し、妊婦さんの身体的・心理的負担、不安、過換気、疼痛に伴う血圧上昇等のストレス反応を緩和することが期待されます。
  2. 鎮痛により分娩中の体力消耗を軽減し、分娩体験の満足度向上、産後の回復支援、患者中心の分娩選択肢の拡充につながります。
  3. 硬膜外カテーテルが留置されていることにより、分娩中に帝王切開が必要となった場合、全身麻酔を回避または減少させ、区域麻酔への移行を迅速に行えます。
  4. 分娩の後の育児に体力が温存できます。分娩に伴う妊婦さんの負担が軽くなることで子育てへの意欲が強まることもメリットといえます。
Q12:無痛分娩は誰でも受けられますか?

当院の無痛分娩は、以下の基準を目安として総合的な判断から適応となる妊婦さんを決定します。適応基準に該当しない場合には無痛分娩は行えません。

  • 正期産(妊娠37週以降)
  • 妊娠合併症がない(前置胎盤、妊娠高血圧症候群、胎児発育不全など)
  • 硬膜外カテーテルが挿入可能
  • 血液凝固機能に異常がない
  • 局所麻酔薬へのアレルギーがない方

 そのほかに背骨の強い変形などで、カテーテル挿入が難しいことが予想される場合には、硬膜外血腫や神経損傷などのリスクが高まることから実施できないことがあります。何らかの合併症や既往症のために無痛分娩ができないかもしれないと不安をお持ちの妊婦さんは麻酔医と相談することができます。

Q13:費用について教えてください。

 通常の分娩費用に加えて約15万円が必要となります。翌日以降は1日増すごとに追加料金(3万円)が発生します。

Q14:予約の取り方について教えてください。

これから妊娠される方
  初診時に無痛分娩の希望についてスタッフにお伝えください。こちらからも希望の有無を確認します。その後の妊娠経過に問題がなければ、妊娠12週以降で無痛分娩説明会にご夫婦でご参加いただき、硬膜外麻酔の実施が可能な方を対象として予約を確定します。予約を取得された方でも、その後の妊娠経過に異常が生じた場合には無痛分娩ができない場合があります。

既に当院に通院中の方
  無痛分娩を希望される場合は、無痛分娩説明会にご夫婦でご参加いただきます。硬膜外麻酔の禁忌に該当しないことを確認したのちに予約を確定します。希望者が 予約可能人数を超える場合には、医学的適応の有無などから総合的に判断して必要性が高い方を優先的に選ばせていただきます。

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